第18回 | ナノ
夏休みなんてないに等しい誠凛高校バスケ部。
しかし、今日は天からのプレゼントなのか1日だけオフになった。
それでも、なんだかんだでみんな休みの日もバスケのことしか考えていないようで、ギラギラと眩しい太陽の光が降り注ぐストバスのコートに誠凛バスケ部の面々が自然と集まっていた。
偶然、この近くをチャリで来ていたカントクも俺達に気付いてコートにやって来る。
結局いつもと変わらない日を過ごしていた。

「あっ!コガ!」

伊月が俺を呼ぶのと同時にゴールに弾かれてしまったボールが俺の視線を横切っていく。
どうやら伊月がシュートをミスしてしまったらしい。

「伊月ドンマイ!」

声をかけてから伊月の代わりにボールを取りに行く。
俺の後ろから伊月の謝る声が聞こえてきたので軽く手をあげて返事をする。
ころころと転がっていくボールを追っていると、そのボールは誰かの足元にぶつかって止まる。
俺はボールを止めてくれたことに安堵しながら声をかけようと口を開いた時だった。
相手の足元に気を取られていたせいか自分の足元に不注意になる、そのせいで俺は大した高さもない段差に派手に躓き、その勢いのまま相手にぶつかってしまった。
お互いにバランスを崩して地面に転ぶ。
俺の頭上を真っ白いレースの飾りが特徴の日傘が飛んでいった。

「わっ、悪い、大丈夫かっ!?」

「ええ、平気です」

日傘と同じような真っ白いワンピースについた砂をはたきながら返事をしてくれる。
日傘の下だと分からなかったが、日傘がない今なら相手の顔がよく見えた。
綺麗な顔立ちに、日焼けなんて知らないかのような陶器のように真っ白い肌、俺に向けられる大きな瞳がすごく綺麗な色をしていて吸い込まれてしまいそうだと思った。

「あの、これ、あなたのですよね?」

「あっ」

色白の手に拾われたバスケットボールが俺の手の中に渡される。
俺がボールを受け取るのをしっかりと見届けてから彼女は自らの日傘を拾ってからさした。

「ありがとな」

「いえ、それでは」

真夏のギラギラと眩しい太陽と合わない純白が俺の前から去ろうとする。
しかし、彼女の姿に気付いた後輩達が彼女を呼び止めてきた。

「こんにちは、みょうじさん」

「みょうじじゃん、ウスッ」

「あら、黒子くんと火神くん、こんにちは」

どうやら彼女はみょうじさんというらしい。
そんな彼女の近くに寄ってくる黒子と火神に彼女は柔らかく笑いかける。
何故だかその上品な仕草に無性にドキドキしてきた。

「これからお出かけですか?」

「ううん、もう終わったの」

黒子の問いかけに彼女は緩く首を横に振る。
個人的には「荷物は?」と聞きたいところだが、とりあえず黙っていよう。

「じゃあさ、みょうじも暇ならバスケやらねえか?」

見るからにバスケとは無縁そうな彼女に何を言っているんだと火神を怒りたくなったが、そんな俺の心配なんて無用のように彼女はにっこりと微笑んだ。

「ええ、是非お願いしたいわ」

両手を軽く握ってふふっと笑う彼女に俺はさらに心配になった。
もし、この炎天下の中倒れてしまったらどうしようかと。

「へぇー、黒子と火神のクラスメイトで友達、ねぇ…」

日向が意外そうに黒子と火神と話す彼女に視線を向ける。
それは日向だけではなく他の奴等も同じだったようで、みんなも彼女に視線を送る。
ふと、彼女が俺達の視線に気付いたのか振り向き、手を口に当ててクスッと笑う。
ダメだあの子、かわいすぎる。

「あんた達、そんなに今日のオフをなしにしたいのか?ん?」

カントクがにこにこ笑いながら俺達1人1人にボールをパスしてくる。
勿論、俺達は一斉にボールを持って自主練習に戻っていった。
ちらりと見た彼女はなんだか楽しそうだ。
まるで子供のように無邪気に笑う彼女の姿を見ながら俺は思う。
あんなふうに笑うんだ、と。


久々のオフが終わり、またいつものようにきつい練習が再開される。
体育館の中は熱気に包まれていて、外の暑さとはまた違った暑さを感じる、そんなふうに過ごしていた時だった。

「こんにちは、お疲れ様です」

体育館の扉から顔を覗かせた人物に俺は勿論、みんな驚いた様子を見せる。
しかし、彼女はそんなことを気にせずにツカツカとカントクに歩み寄っていった。

「先日はお世話になりました」

「いや、うちは何も…」

「今日はお礼をしたくて参りましたの」

彼女はいつものように両手を軽く握って柔らかい微笑みを浮かべる。
それから意外な言葉を口にした。

「私をマネージャーにさせていただけませんか?」

誰もが彼女を見て思うはすだ、彼女はどう考えても運動部には向いてないと。
そりゃあ、マネージャーがいてくれれば助かるだろうけど、でも彼女は違うと思う。

「カントク、僕は賛成です」

「俺もいいと思うぜ」

黒子と火神は彼女がマネージャーになることを反対しないようだ。
というか、いつも同じクラスで過ごしている黒子達の方が1番に反対しそうな気もするのだが。

「じゃあ、お願いしようかしら…」

「嬉しいです、精一杯務めさせていただきますね」

しかし、俺達は彼女を見くびりすぎていたと知るのはすぐあとのことだったのである。
彼女は見た目こそ運動部に合わないが、マネージャーとしての仕事ぶりは誰よりも運動部に合っていた。
こうして彼女を迎えた誠凛バスケ部の夏休みはあっというまに過ぎていってしまい、残すところ後僅かとなっていった。
そんなある日のこと、木吉がいくつか花火を買ってきた。
カントクや日向は練習する気があるのかと怒っていたが、木吉はそんなことは気にせずみんなで花火をやろうと言い出した。
まぁ、木吉は一度言い出したら聞かないから結局花火をやることになるわけだけど。
でも、たまにはこうしてみんなで思い出作りもいいかなと個人的には思う。

「みょうじさん、さがってて下さい」

「平気よ、これぐらい私にもできるわ」

「いや、みょうじはやめておいた方がいいと思う」

「失礼ね、もう」

花火をめぐって争う黒子達をぼんやり見つめながら自分の手持ち花火に火をつける。
すると、いつのまにか俺の傍に来た彼女は興味深そうに俺の手持ち花火を見つめた。

「綺麗ですね、本当に素敵だわ」

「まさか、花火やったことないの?」

「あのように危ないといって触らせてもらえないの」

彼女は頬を膨らませながら黒子達に視線を向ける。
彼女からの視線に気付いたのか、黒子達は俺に向かって彼女に花火を触らせるなと訴えてきた。
なるほど、確かにこれだと花火はできないよな。

「……やってみる?」

「えっ」

「俺が見てるから大丈夫っしょ」

今自分が持っていた花火の火が消えてしまったので水の入ったバケツに入れる。
それから新しい花火を取り出してから火をつける、そして彼女と一緒に花火を持ち、始めに火をつけた花火から彼女の花火に火を移す、そうすれば彼女の持つ手持ち花火も鮮やかな色を魅せながら燃えていく。

「わぁ、綺麗」

彼女が心底嬉しそうに笑う。
顔をくしゃくしゃにして笑い、いつもの上品さなんか何処へ行ってしまったのかというぐらい彼女は本当に楽しそうだった。

「次はどれにしましょう?…あっ、これも素敵な色をしているのね!どうしようかしら?」

ハハハッと思わず笑ってしまう。
彼女が不思議そうに俺に振り向くが、気にせずに笑い続ける。
段々と彼女の眉間に皺が寄り始めたので、俺は自分が思っていることを彼女に伝えた。

「悪い、みょうじが変って言いたいわけじゃないんだ」

「では、何故そんなにおかしそうにしているのですか?」

「多分さ、嬉しいんだ」

「嬉しい?」

「だってみょうじが心の底から楽しそうに笑うから、なんだかそれが無性に嬉しくなった」

彼女の頬がほんのりと赤く染まっていく。
色とりどりの花火の光を浴びながら彼女はふわりと笑った。

「ありがとうございました、あなたのおかげで素敵な思い出ができたの。……本当に、ありがとうございます」

ドクンと一際大きく心臓が跳ねる。
やけに煩い心臓の音を感じながら俺は彼女に返事をした。
ずるいじゃないか。
上品な仕草をするかと思えば子供みたいにはしゃぐだなんて。
ああ、もう、彼女から目が離せない。



副作用で恋に落ちます

君の仕草に俺はまた夢中になっていく。
君を知れば知るほど虜になるこの現象はまるで風邪薬の副作用のようだ。
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