第17回 | ナノ
懐かしいぐらい久しぶりの小春日和の空から降る、キラキラとした太陽の光に目を細めながら青い空を見上げていると吸い込まれそうな感覚になってしまう。

少しだけ、寝転んでみようかなー。

誰もいない事を確認してから小さく伸びをして、ゆっくりとコンクリートに寝転ぶと少しひんやりとした冷たさに包まれた。

「やっぱり、まだ少し寒いなぁ」

日差しは暖かくても季節はまだ変わりゆく途中の様で、着ていたカーディガンの袖をギュッと握った。

まっすぐに空を見上げていると、ガチャッと小さな音と一緒に扉が開く音がした。

「…みょうじ」

聞こえた声に目を開けて、視線だけをそちらに向けると同時に薄っすらと影に覆われた。

「日差しは暖かいとはいえ、まだ寒い。風邪を引いてしまうよ、みょうじ」

私を見下ろす征十郎の髪が、太陽の光に反射して赤く輝いている。
その赤があまりに綺麗すぎて無意識に征十郎に向けて手を伸ばすと、彼はゆっくりと私の頭元にしゃがみ込んだ。

私の手のひらを優しく包み込んでくれる征十郎の手のひらはいつも通りで、暖かくて心地よかった。

「征十郎の髪、綺麗だね」

こちらからも手を握り返して言うと、征十郎は少しだけ首を傾げてから寝転んでいる私の髪を指ですいた。

「みょうじの髪には負けるよ。
太陽が反射して、キラキラしてる」
「征十郎の髪も、反射してキラキラしてるよ。
ほんとに綺麗な赤色だね」
「みょうじがそう言ってくれると嬉しいよ。」

フッ、と瞳を細めた征十郎の表情は穏やかで私を思わず笑顔にさせるような優しさを感じた。

「お昼休みはバスケ部のミーティングなんじゃなかったの?」
「そうだよ。でもみんなに言って早めに切り上げたんだ」
「そうなの?…わっ」

そう言いながらグッと私の腕を引き上げる征十郎の力は、いとも簡単に私の身体を起こして立ち上がらせた。

それと一緒に立ち上がった征十郎は手を握ったままで私の背中についている砂ぼこりを軽く払ってくれた。

「ありがと。
でも珍しいね、征十郎が理由もなく早くミーティングを切り上げるなんて」

空いている手でスカートの裾のホコリを自分で払ってから顔を上げると、征十郎はまっすぐに私を見て笑っていた。

「征十郎?」
「誰が理由がないって言った?」
「えっ?だって今ここに居るから、何も予定がなかったのかなって」

素直に考えを口にした後、征十郎は困ったように笑ってから私の腕を強く引いたからその胸の中に倒れこんだ。

コンクリートの上では知らない間に体温が奪われてしまっていたようで、征十郎の腕の中がまたやけに暖かく感じた。

「みょうじがこうして外にいる気がしたからね」
「私?」

顔だけ上げて征十郎を見上げると、彼は少しだけ腕の力を強くした。

「こんなに晴れた日は、みょうじはきっと屋上に出てしまうと思ったんだ。
だけど、晴れてるからと言ってまだ完全に春じゃない。長く外にいて風邪でも引いてしまうと困るだろう?」

ほら、こんなに冷えてる。と呟きながら背中をさする征十郎の手は優しくて、陽だまりの中に居るみたいでやっぱり心地よかった。

「みょうじに風邪を引かれると、部活に集中出来ない」
「ふふっ、征十郎は心配性だねー」
「そうかい?
大切な人を心配するのは当たり前だろう?」

まっすぐに放たれた言葉は、本当にストレートすぎて私の胸をくすぐった。
心のくすぐったさに小さく笑みを一つ落としてからまた征十郎の胸に顔を押し付けた。

「ありがと、征十郎
心配かけちゃダメだから、気をつけるね」
「あぁ、そうしてくれ。
じゃないと僕の心臓がいくつあってももたないよ」

ふふっ、と小さく笑った征十郎と共に揺れた赤色はまた太陽と一緒にキラキラ光った。

その眩しさと心地良さに私は瞼を閉じて、征十郎の腕の中にゆっくりと沈んだ。




花に埋もれていく冬の夢
(春の足音は、すぐそばに)


花に埋れてゆく冬の夢

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