隣の席をちらりと見る。黒い、サラサラな髪。そんな彼が黒板を捉えているのを見るのがいつもの日課のようになりつつある。一年は違うかったが、去年から同じクラスだ。隣の席になったというのは初めてで少し緊張した。口は悪いが優しさが垣間見える言葉に、いつの間にか惹かれていた、というのは親友しか知らない。自転車競技部のマネージャーを1年の最初からしていたが、途中でヤンキーが入ってきた、と部内は騒がしかった。あたしも最初は怖かったけど、話してみると、口調は荒いが、他の人を気遣ったりする。口調はそれはもう悪いが。そんな彼をみて不器用だな、と感じたと共に胸がすこし熱くなったのを今でも覚えている。 「なまえチャン」 「なあに?」 「…教科書忘れたンだけど」 「あぁ、一緒に見る?」 そう言うと彼は、悪りィと返事をしてあたしの机と、彼の机をくっつけた。いつもより近い距離に、荒北がいる。練習の時だって近い時はあるけど、そこでは意識しないように頑張ってる。真剣に練習してる他の部員達に変な影響がでないように。贔屓してしまわないように。そういうのはこの二年間で慣れていたが、今のこの瞬間は違う。確かに、部員同士ではあるが、クラスメイトで、隣の席の人だ。隣を再度確認すると、ノートに板書きを写していた。いつもより近い右半身が、熱を持っているように感じた。 「…なまえチャン、」 「今度はどうしたの?」 「ちょっと耳貸して」 「…何で」 「いいから」 「…はい」 そう、耳を近づけると、彼は小声で、視線が痛いんだけどォ、と言った。まさか、まさか、見ていたのがバレていたのか、顔に熱が集まる。 「俺が気付かないとでも思ったのォ?」 そう、歯茎を出してにやりと笑う彼にさえ、心臓は跳ねてしまうのだから、もうどうしようもないのだ。 「い、いつから気付いてたの」 「…去年」 「え、」 その言葉に、驚いた。確かに、隣の席になったのは初めてではあるが、荒北より後ろの列の席になった時は、見ていた。それを、気づかれていたなんて。 「でもさァ、なまえチャンって鈍いヨなァ」 「にぶ?な、何でよ」 「だって、俺だっていつも見てンのに、全然気付いてねェだろ」 彼はまた、歯茎まで出る、先程と同じ表情だった。その顔はまさしく、獣が獲物を捉えたような顔である。誰かが荒北は狼みたいだって言ってたのを耳にしたことがある。あれもあれで間違ってないとは思うのだが、あたしが例えるなら、あれだ、もっともっと大きい、巻き込まれたら手につけられないもの。 「授業中だけじゃなくってさァ、もっと俺の事見て欲しいんだけどォ?」 もう、とっくに巻き込まれて、めちゃくちゃだ。 となりの怪獣くん |