「つ、月島、どどどどうしよう」 「なにが」 「あのね、最近影山が優しいの…!」 はあ、って盛大にため息をつかれた。こっちは真剣そのもの大真面目に相談しているのに月島は呆れたような目で私を見るだけだ。そんな顔しなくたっていいのに。月島は私の相談を受けるのが嫌らしい。でも月島が一番的確なアドバイスくれそうなんだよ、ズバッと言ってくれそうだし(たまに心に傷を負うこともあるけど!) ってことでさっそく相談いいですか、あ、お悩みっていっても恋愛のほうね。 「優しいって、悩みにもなってないじゃん…」 「違うよ!だって男子って好きな子には意地悪しちゃうんでしょ?」 「どこ情報だよそれ…」 めんどくさそうにため息つきながらも、ちゃんと答えてくれる月島はなんだかんだ言って優しいと思う。だから私は相談を続行することを決定した。 そう、影山は最近わたしにすごく優しいのだ、気持ち悪いくらいに。 この間だって授業中についうっかり居眠りしてたら起こしてくれた。私としてはなんで影山授業中に起きてんの珍しい!とか思うくらいなのに、さらに私をわざわざ起こしてくれたのだ。「起きろボケ次当たんぞ」って口は悪かったけど。ていうかほんとなんで影山は起きてたんだろうね。謎だ。 他にも掃除の時間に机運んでたら代わりに運んでくれたし、シャー芯なくて困ってたら2本くらいくれたし、朝下駄箱で会って私が靴履き替えてるの待っててくれたし。 「きもちわるい…!」 「なまえはほんとに影山のこと好きなの?」 「え?もちろん好きですとも」 だって今までこんなこと全然なかったんだよ、今までは私の顔見るたびに憎まれ口ばっか叩いてたのに。その当時はちょっと傷付いてたけど、今さらになって前のほうが良かったなあって思い始めてしまった。 「月島だったら好きな子に意地悪する?」 「僕?え、まあ、うん多分ね」 「ほらー!やだもう脈なしフラグだ!」 「いやそれはないと思うけど…」 どうしよう!って頭抱えたら「なまえは色々考えすぎなんだよ」とデコピンされた。仕返ししようと手を伸ばしていると、月島は「あ」と呟いて私の後方を見ているようだった。ゆらりと背後に揺れる気配。 「いっだ!…って影山!」 「お前なんでちょっと嬉しそうなの」 「なまえは影山に意地悪されたいんだって」 「は?ドMか」 「違う違う違う!」 いきなりチョップしてきたせいで涙目になりつつ影山を見上げると、どうやら嬉しい気持ちが顔に出てしまったようで訝しげに眉をひそめられた。引かないでほしい、ドMじゃないから。月島は爆弾を投下するだけ投下した後、「じゃあ僕はこれで」と私を置いてさっさといなくなってしまった。この状況をどうしろと。 「いやー最近影山が優しいから嫌われたのかと思って…」 「はぁ?なんでだよ」 「だって男子って好きな子には意地悪するんでしょ…?」 「は…?」 だめだすっごく恥ずかしい。なんで月島いないの、こういうときどうすればいいのか教えて。空気にいたたまれなくなって、やっぱなんでもないです!とダッシュして逃げようとしたら「オイこら待て」って手を掴まれてしまった。どうしよう、本格的にどうしよう。こういうときはどうしたらいいの。誰か助けて。 「俺って口悪いから」 「…しってる」 「ちょっと反省したんだよ…!」 傷付けたくねーから、って言いながら影山はとうとうその場にしゃがみ込んでしまった。ちょっと、ねえ、そこで照れないでよ。ほとんど反射的に私もしゃがむと視線がするりと絡み合って途端に心臓が煩く騒ぎ始めた。燃えてるみたいに顔が熱い。 「嫌いじゃねーから好きだから」 「…ん」 「なんか言えよボケ」 「いっだ!」 チョップは相変わらず痛いし口も相変わらず悪いし、少しだけ優しくなったはずの影山は以前とあまり変わらないままだった。よく分からないけど、でもそんなことどうでも良くなるくらい私は影山のことが好きなんだと今さら気が付いて何だかとても恥ずかしい。 なんか言え、って言われたってそんないきなり言葉なんて出てくるわけないから、代わりにそのまま抱きついてやった。一瞬身を強張らせた影山はぐしゃぐしゃと頭を撫でてきたけど、その手はやっぱり優しくて、あれれと思う。 さらってくれてもいいんだよ |