第16回 | ナノ


「あっ、土方さんちょっと車止めて!」
前方100m。死んだ目をした銀髪くるくるパーマ発見。よし、私のセンサーも日に日に機敏になってきてる。パトカーでの見廻りだと大概私が助手席だから周りを気にすることもなく自由でいれる。そして最近もっぱら日課になっているのが、銀さん探しである。銀さん探しとはその名の通り、銀さんを探すことである。普段は会えなく、偶然を頼りにするしかない毎日なんて耐えられないので、なるべく見廻りをして発見できるようにしている。
だけど生憎本日のペアは土方さん。急にパトカーを止めてくれと言って素直に言うことを聞いてくれるような軽い男ではない。

「あぁ?なんでだよ?」
ほら、しつこい。

「いや、ちょっとお花を摘みに…?」
「どうして疑問形なんだよ」
「もう、そんな細かいこと気にしないで早く車寄せてください!じゃないとパトカーで脱糞ですよ!」
自分なりの脅しをし、土方さんはため息交じりに路肩へ車を寄せてくれた。
そしてロックが解除された瞬間、私は我慢ができない人のように車を飛び出して先ほど銀さんを見かけた方向に走った。アデュー土方さん、一人にしちゃってごめんなさい!


「銀さーん!」
銀さんの後ろ姿が見えて、待ちきれずに往来で名前を呼んだ。振り返った銀さんはまた鼻をほじっているアホ顔だった。

「んぁー?おぅ、なまえじゃねェか」
「会いたかったよ銀さん!」
「こんな真っ昼間からこんなとこで何してんだ?チンピラ警察は仕事あんじゃねェの?」
「そりゃあそうだよ!銀さんと一緒にしないで!」
「あれ、なんか今すごい銀さん貶された。さりげなくプーだということを指摘された!」

少し背伸びをして抱きつくと身長差もあり、私の顔はちょうど銀さんの胸板あたりまで届く。銀さんの甘いいちご牛乳の匂いで満たされてる!なんという至福!
こういった隙がないと銀さんと会うことはできない。ただでさえ日々の仕事で忙しいのに、うちの副長が大の銀さん嫌いということもあり、会いたいと言っても「切腹だ!」なんて言って断られる。絶対土方さんと銀さんは似た者同士な筈なのになんであーも仲が悪いんだか……?

「で、真選組の最強女剣士がプーな銀さんになんの用なんだ?」
「その呼び方やめて」
「なんでだ?剣豪で結構じゃねェか。どうせ毎日ちやほやされてんだろ?」

真選組の最強女剣士。いつからか巷ではそう呼ばれるようになり、恐れられた。私だって普通の女の子なのに、その辺の子と変わらないはずなのに、同じではいられない。だからこの名前で呼ばれるのは嫌い。
もちろんちやほやなんてされてない。女というレッテルとあの鬼副長がいる限り、真選組ではゆっくりなんてしてられない。だからこうしてたまに抜け出して銀さんとの暖かい時を求めるのだ。

「そんな可愛くない名前なんてほしくないから銀さんのサインが書かれた婚姻届ください」
「逆ナンか?俺ァストーカー女には懲り懲りだぜ」
「じゃあキスして」
「はぁ……なんでそうなんだよ?」
「私が可愛くないから?私が普通の女の子みたいになれないから嫌なの?」
「別にそんなこと言ってねェだろ?」

こんな恐い女なんてきっと誰でも願い下げだろう。今まで散々後ろ指さされてきて慣れたけどやっぱり自分の好きな人に言われると応えるな。腰にぶら下がる刀が恨めしい。こんな可愛くない鉄の棒じゃなくておしゃれな鞄を持ち歩きたい。綺麗な着物も、お化粧も。
銀さんの羽織りの裾を握る手にぎゅっと力を込めて、シワを作る。すると、黙っている私に気づいた彼は自分の掌を私の頭に乗っけて、グッと上を向かせるようにした。

「なんつー顔してるんですかなまえちゃん?」
「ふんっ、どうせちっとも可愛くないですよ!」

ポコポコと彼の身体に据えた腕で叩く。些細な八つ当たり。ごめんね銀さん。


「そうさなァ、お前がもっとボンキュッボンになって色気ムンムンになったら考えてやんよ」
「………えっ?」
「銀さんは大人なレディーと結野アナにしかアナログスティックが反応しねェからな。精々頑張れよ」

この人はこういう人だ。私のちっぽけな悩みもすぐに吹き飛ばしてしまう。もう、銀さんのせいで笑いが止まらなくなっちゃったじゃない。

「じゃあ銀さんをメッロメロにしちゃうとびっきりの美人になるからそれまで待ってくれる?」
「早くしねェと銀さんが他の女に取られちまうかもよ?」
「そんな物好きそうそういないから大丈夫だよ」
「あれー?なまえちゃーん?」

でもやっぱり心配だから指切りげんまんして?そう言って短い小指を銀さんに差し出し、彼のと絡める。ゴツゴツとした男らしい指。同じ剣を握る者なのにこうも違う。こういう小さな違いで自分も女なのだ、と再確認できて嬉しい。


「おいみょうじ、便所はもう済んだのか?」
「げっ…………」

夢の世界に居られるのもほんの少しの間。こうやってすぐ現実から鬼のお迎えがやってくる。

「随分なげェと思ったらまたこの野郎といたのか……」
「いいじゃないですか少しくらい!土方さんは私の母ちゃんじゃないんですよ!」
「見廻り放棄した奴に言われたくねェよ」

額に青筋が現れた。おっと、これはあとちょっとでブチ切れるサインだ。お願いだからここで銀さんと喧嘩にならないでくださいね?

「土方くん嫌われてるねー?銀さんなんてなまえちゃんに求婚されちゃうほど愛されてんのになー?上司ならちゃんと部下を手懐けないとダメなんじゃねェの、鬼の副長さんよォ?」
「ぎ、ぎ銀さん?!」

グイッと肩を後ろに引かれて、バランスが崩れるが私の背中はすっぽりと銀さんに受け止められる。そしてまさかの台詞に頭が真っ白になってしまった。一方でそれは土方さんの爆発寸前の火薬庫に火をつけてしまったようで、頭から炎が見えた。あっ、これはさすがにやばいよ!

「求婚だァ?自分の部下に給料もろくに払えないお前にはそんなの一生こねェよ。おいみょうじ、行くぞ。帰ったらお前には上司からのスペシャルサービスで俺の書類整理手伝わせてやる」
「いやァァァァァア!銀さん助けてェェエ!!」

無理矢理腕を引っ張られ、銀さんの温もりが消える。なんてことしてくれんだ土方さん!鬼!人でなし!……なんて言ったら自滅なんで心の中でそっと叫ぶ。
振り向くと、銀さんが呆れたように笑いながら手を振ってくれていた。「じゃあな」と口パクで言っているのが分かった。そして返すように私も大きく振った。人混みで彼の姿が見えなくなるまでずっと。


かわいくなったらキスしてね


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