ちらちらと降る雪。コートをきてマフラーを纏い手袋をして外に出る。なかなか雪が降る島ではないからか、街中の雰囲気が明るく外にはたくさんの子供がわちゃわちゃと楽しそうにはしゃいでいた。大人たちもどこか嬉しそうでまるで心はお祭り気分だ。
店先で見つけた少しお洒落なコートやハットがついつい目に入り立ち止まる。
「なに見てるんだい、マドモアゼル」
「あ、サンジくん」
「珍しいな男物なんて。誰かにプレゼントか?」
つい先日、ふらりと街に買い物に来ていたとき突然雨が降った。家まで走って戻ろうとしたが思ったより距離が遠く途中で走るのを諦め軒下で雨が止むのを待つことにした。そこで彼とたまたま出会ったのだった。
「寒くねえか?」
「大丈夫です」
「服ずぶ濡れだろ」
「あなたも」
「ほら好きなの買えよ」
丁度軒下があるお店が服屋だったためサンジくんのお金で花柄のワンピースを買ってもらった。ちなみに柄を指定したのはサンジくんだ。
それからはこうやって毎日どこかで会うようになって気づけばこんなに仲良くなっていた。今日こそはサンジくんに会わないだろうなんて思って、以前のお礼をしようと珍しく男物が売っているお店を見ていたのだけど見つかってしまった。特に用がないなら俺と付き合ってくれねえか?そう言うサンジくんに頷き隣を歩く。
わたしは自分からよく話すほうではないから自然とお互い無言になって、それをサンジくんは苛立っているのかわからないが煙草に手を伸ばそうとして、その手を止めた。煙が苦手なわたしの前ではサンジくんは絶対煙草を吸わないのを知っている。別に無理なんてしなくていいよ、そう言ったこともあるけれどレディーの嫌がることをしたら紳士失格だろ?なんて笑って言ってくれた。
「吸ってもいいよ、わたしは大丈夫だから」
「雪が煙で汚れたら怒られるからやめとく」
ニヤリと笑ったサンジくんの目にははしゃいでいる子供たち。どこまでも紳士だなあなんて思いながらサンジくんを見つめると彼の左手をわたしの前に差し出してきたからわたしも自分の右手を差し出す。手を繋ぐのは何度目かは忘れても、こうやって手を繋ぐたびに高鳴る胸の鼓動は毎回のことだ。
「今日の晩御飯はなにかなあ」
「お嬢様がお好きなものを」
「好き嫌いはしないよ」
「おう、いい子いい子」
いつ消えるのかもわからない彼を思う夜は眠れず、街で見かける度に安堵して。彼は自分の口から自分のことをなにも話さない。俺はコックだ、としか言わないのだ。知ってるよ、本当は全部。だけどわたしもそれを言わない。
修道院の前のスノードロップがまるでわたしをクスクス笑っているかのように、下を向いて咲いている。「あなたもきっとわたしみたいに彼のことを待ち続けるのよ」そう聞こえた気がした。初恋のため息だなんて誰がそんな上手い花言葉をつけたのだろう。
「サンジくん」
「なんだい」
笑顔でわたしを映すその瞳があまりにも綺麗で。わたしを置いていかないで、なんてワガママは余計に言えない。どうした?なんて疑問に思う表情も全部全部離したくないなんて、そんな自己中心的な考えすらも見抜かれたくなくて。大きな背中を抱きしめると肺中に広がるサンジくんの匂いとほのかに香る煙草、そして感じる温もり。
その日の記憶が頭から離れない。 |