昼休みに屋上でキラキラと眩しい空をぼんやりと眺めて見る。
青すぎる空を見てると吸い込まれそうな感覚になるなぁ。 なんて思いながらも広すぎる空に手を伸ばして、グッと空気を掴んだ。
「何してんだよ、なまえ」
『ん?…あー、大輝』
ひょっこり貯水タンクの上に顔を出して眉をしかめる大輝に、ヒラヒラと手を上げると彼はため息をひとつ落として私の横に座った。
『今日は遅いじゃん、待ちくたびれて溶けるかと思ったよ?』
ニッと笑うと大輝は横目で私を見てから小さく笑い、私の横に寝転がって手のひらを空にかざした。
『何してるの?』
「何って、お前がさっきやってたことを真似してるつもりなんだけど」
寝転んでいる私達の顔の上をヒラヒラと動く大輝の手のひら。 蝶々のように動くその手を、目で追いかけながら私ももう一度空に手を伸ばしてみると、その手のひらは簡単に大輝の手によって止められた。
「捕まえた」
『大輝の手、蝶々みたいだったね』
「蝶々なぁ…。 なら今止まってるお前の腕は花の匂いでもすんのか?」
『ちょっ、大輝!』
すんすんと鼻元に私の腕を引き寄せる大輝に腕を引こうとすると、更に強く握られた。
「…あー、確かにいい匂いするかもな」
『もー、そんな訳ないでしょ! うーん、でも大輝が蝶々なら私はスイートピーの花がいいなぁ。』
「スイートピー?」
『うん。スイートピー。 私結構好きなんだよね』
ニッとまた笑うと私の手を握ったまま下ろしてから「スイートピーねぇ…」ってぶつぶつ呟いていた。
『私がなんで空に手を伸ばしてたか分かる?』
「…あぁ?」
突然の質問にあきらかに意味が分からない様子で眉をしかめた大輝に、私はまた一つ笑みを落としてから空いている方の手を空にかざした。
『なんかさぁ。 空の青さとか暖かさって、大輝に似てるなぁって思ってね』
少しだけ気恥ずかしい気もしたけどこれが素直な感情だし、なんとなく今それを伝えたくなったから言ってみたら、大輝は真っ直ぐにこっちを見ていた。
「…空は天気が変わったら青くなくなるじゃねぇか」
『…あー、まぁそうだね』
今度は私が返事の意図があまりわからなくて迷いながら答えを返すと、大輝は空いている手で頭をかいててから難しい顔をした。
『大輝?』
「あー、だからな? あー!もう良い!…なまえ!」
『はい?え、わっ!』
握っていた手を思い切り引かれて自然と大輝の腕の中に飛び込んだ。
暖かさと大輝のいつもの匂いに、落ち着きを不意に感じて小さく息を吸い込んだ。
「…空は毎日変わるけどよ、俺は毎日お前の側に変わらず居てやるよ」
『ふふっ、大輝がそんなに素直な事言うのって珍しいね』
「俺だって言う時はちゃんと言うっつーの」
表情は見えないけど少しだけいつもよりも早い胸の鼓動に、思わず頬が緩んだ。
『…大輝、好きだよ』
今度は私がギュッと抱き着くと、上からククッとくぐもった笑い声が聞こえた。
「ばーか、俺の方が好きに決まってんだろうが」
それだけ言ってまた私を抱きすくめる大輝に、また一つ笑みを浮かべてから大輝の胸で目を閉じた。
と或る乙女の福音 (スイートピーの恋心) |