「なまえ」
私はなまえの手を取り、まっすぐに見つめる。
「……何よ」
彼女の表情は驚愕に満ちていた。 突然のことだから当然だろう。
「…愛してる」
そう一言告げて、ふと視線をそらす。 常に無表情だと言われる私でも、少しぐらいは照れるという感情はある。 なまえがため息を吐く。 呆れて物も言えないのだろうか。 それはどうやら落胆の溜息らしい。
「…なまえ?」
答えもなく、彼女はうつむいて肩を震わせている。
「……あんた、馬鹿すぎ」
なまえは顔を上げると背伸びして、急に顔を近づける。 彼女は確かに落胆していた。けれど、顔を上げた時の表情は笑っていた。
「…そんなこと、すでに分かりきってることじゃないの」
優しい口づけをして、彼女はまた微笑んだ。 いくら愛をささやいても、彼女にはわかりきったこととして処理されてしまう。 今度、似合わないくらい豪華な花束でも持って愛をささやいてみようか。 きっと、喜んで受け取ってくれるだろう。 |