第15回 | ナノ

「なまえ」


私はなまえの手を取り、まっすぐに見つめる。


「……何よ」


彼女の表情は驚愕に満ちていた。
突然のことだから当然だろう。


「…愛してる」


そう一言告げて、ふと視線をそらす。
常に無表情だと言われる私でも、少しぐらいは照れるという感情はある。
なまえがため息を吐く。
呆れて物も言えないのだろうか。
それはどうやら落胆の溜息らしい。


「…なまえ?」


答えもなく、彼女はうつむいて肩を震わせている。


「……あんた、馬鹿すぎ」


なまえは顔を上げると背伸びして、急に顔を近づける。
彼女は確かに落胆していた。けれど、顔を上げた時の表情は笑っていた。


「…そんなこと、すでに分かりきってることじゃないの」


優しい口づけをして、彼女はまた微笑んだ。
いくら愛をささやいても、彼女にはわかりきったこととして処理されてしまう。
今度、似合わないくらい豪華な花束でも持って愛をささやいてみようか。
きっと、喜んで受け取ってくれるだろう。

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