第15回 | ナノ

それは黄昏時、私が真選組の屯所で廊下を歩いている時のことだった。

木々が真っ赤に染め始め太陽が沈みかけ薄暗くなったその世界の片隅、その私の視界の先には縁側に座り込んでいる1つの影が映った。部屋側から差し込む光を頼りにその影を見てみればそれは総悟くんだということが分かった。私はゆっくりその影に近付き声をかける。

「総悟くん、どうしたの?こんな時間に…」
「っ…あぁ、なまえかィ…」

私の声に気付きはっと驚くように振り返った総悟くんは私だと認識するとゆっくり目を伏せて再び前を向き直した。

いつもの総悟くんと様子が違う。そう感じた私はほんの少し首を傾げるとそっと総悟くんの隣に座った。すると総悟くんの手には1枚の紅葉が握られていたことに気が付く。


「何か…思い出してたの?」
「あぁ、ちょっと昔の思い出に浸ってた」

そう言う総悟くんの横顔は少し切なげに見えた。私はその横顔を見つめるとそっと総悟くんの手元にある紅葉に目を移した。


「確かあの時もこうやって黄昏時で、こうやって紅葉が散ってた」

もう一度その総悟くんの瞳を見つめると今度はその視線を辿ってその先を見てみた。そこには、薄暗くなった世界に真っ赤に染まった紅葉たちがゆっくりと舞い散ってゆく光景が見えた。

そんな世界を見ていたら私もなんだか郷愁に駆られて、昔の思い出がすごく懐かしく思えた。

私の脳裏には、武州時代の1つの思い出が蘇る。きっと総悟くんだって、おんなじ思い出を思い出しているんだろう。


「私も、あの日はそんな季節だったなぁ…」
「………」
「私も総悟くんの気持ち、分かるから」

私はそっと目を伏せてその思い出を思い出すとふわりと縁側に舞い込んで来た1枚の紅葉をそっと手に取った。紅葉を見つめるその私の横目から総悟くんの視線を感じるけれどポツリポツリと私は自分の想いを言葉に紡ぐ。


「誰かを想っててもその人の目には私なんか映ってなくて、その人は別の人を見てる」
「………」
「まぁでも実質的には総悟くんとはちょっと違うのかな…。総悟くんの場合はお姉さんだもんね…」

苦しくって、でもやっぱり想いなんて伝えられなくて、ずるずるとここまで来た。ちょっと違うけど、きっと総悟くんだって似たような想いをしていたんだと思う。


「ごめんね、私なんかと一緒にしちゃって…」
「いや、いい…。分かってるから、姉上はアイツが好きなんだって」
「総悟くん…」
「別にシスコンだって言われたっていい。俺ァ姉上が好きだ。姉上は今でも自慢の姉上でィ」
「うん…」
「好きだから、自慢の姉だから、姉上が気に食わねェアイツに惚れてるってこと、認めたくなかった。アイツも姉上に惚れてるって知ってたから、なおさらだった」

そう言うと総悟くんはふっと鼻で笑って「ま、ただアイツに嫉妬してただけなんだけどねィ…」と付け加えるようにして言った。その塞がれた瞳からは何を感じているのかは分からない。

だけど、やっぱりあの頃と何も変わってないんだと私は思った。あの頃も、今も、結局私の恋は一方通行なんだって痛いくらい痛感させられた。ミツバさんが亡くなってしまった今でさえもあの人の目には私なんて映らない。いや、亡くなってしまった今だからこそ、あの人の目には私なんて映らないんだろう…。

ぎゅっともう一度紅葉を握って私は昔を思い出すように小さく囁いた。


「私も、ミツバさん大好きだよ。いろんな人に愛されて、優しくて、素敵で」
「………」
「だからね、私もミツバさんに嫉妬してた。あの人に想われてる、ミツバさんに…」
「っ…」

その言葉に総悟くんは言葉を詰まらせるかのように目を見開けていた。だけど私も言葉にしてみたらなんだかおかしくなってしまってふっと鼻で笑った。


「フッ…テメェも土方が好きだったのかィ…。そりゃあ初耳でさァ」
「違うよ」
「っ…」
「違う。確かに土方さんも好き。だけどその好きとは違うの」

あの頃もあの人の目には私なんて映ってない。きっと今でも、今この瞬間でもあの人の目に映ってるのは私なんかじゃない、きっとミツバさん。

でも、でもきっと溢れてくるこの想いは、留まることを知らないんだろう…。


「その条件に当てはまる人はね、もう1人…いるんだよ?」
「っ…」

土方さんじゃなくて別の人。偶然にもあの場に居合わせていたもう1人の人。あの場にいて、私じゃない、別の人を想っていた人…。


「ね?総悟くん…」

これ以上居たたまれなくなって私は逃げるかのように立ち上がるとそっと総悟くんに背中を向けて歩き出した。恥ずかしくって総悟くんの目なんてずっと見れなかったから今総悟くんがどんな顔をしているのかなんて分からない。

少し自制して言ってみたけど、さすがにあそこまで言ったらきっと誰だって気付くだろう。追いかけてきて欲しいなんてそんな強欲なことを思うけれど、それでも振り向く勇気なんて持てない。私はあの頃から成長してない。これが精一杯の勇気だから。

だから、例え追いかけてきてくれなくても自制したつもりでもう少しだけ前を向いて歩こうと思う。

どんなに振り返ったって、どんなに思い出に浸ったって、きっともう、想いを伝える前には戻れないから―…。

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