「受け取らねえなら捨てるけど。」
そう言うと、ぼけっと此方を眺めていたなまえはハッとして貰うと呟いた。黒目がちな瞳は大きく開いて驚いてますと言わんばかりだ。
「見たことのない組合せだったから…びっくりしちゃって。」
「似合わなくて悪かったな。」
「えっいやいやそうじゃないよ!花宮くん綺麗な顔してるから凄く似合ってる!」
男からすれば十分馬鹿にしているような言い種だけれどなまえのことだ、きっと誉め言葉と本心が本気で交ざっている。うまい口回しも出来ないなまえを鼻で笑うと何を勘違いしたのか合わせてのほほんと微笑むからこいつは真性のバカだ。
「おら。」
「わあ、ありがとう。」
「感謝しろよ。」
「うん!」
綺麗、と溜め息のように出た言葉。 がさつではないが、花に興味があるわけでもないなまえもやはり女らしい情緒はあるらしい。キラキラと目を輝かせてこいつの手に収まる程度の小さな花束を見つめている。
「どうしたの?」
「別に。たまたま売れ残ってたから買っただけ。」
「……そっか。」
「…………。」
「…私ね、今日誕生日なの。」
「だからなんだよ。」
「てっきり誕生日プレゼントかと思っちゃった。」
「ハァ?自惚れてんなよなまえのくせに。」
「はは…ね。でも嬉しいなぁ。」
なまえはそっと目を伏せて花束へと鼻を近付ける。 白と青の薔薇を中心に桃色のかすみ草をちりばめたそれは薔薇の濃密な匂いだけで酔ってしまいそうで。噎せるように甘く、そして青臭い。個人的には好きにはなれないこの香りを目を閉じてゆっくりと堪能するなまえの嗅覚が信じ難い。
「臭くねえのかよ。」
「良い匂いだよ。」
「…理解出来ねえ。」
「ふふ、薔薇も良いけど、これ、かすみ草だよね。ちっちゃくて可愛い。」
「なまえみたいだな。」
「そう、かな?これでも150後半はあるんだけど…。」
そう言うこっちゃねえんだよ阿呆だなまじで。俺は口をつぐみ静かになまえを眺めた。傾げた首は白くて儚げなか弱さを感じる。全ての線が細くて簡単に壊れてしまいそうだ。俺が手を下せば、きっとぐちゃぐちゃになる。そういう危なさをもった彼女とその引き立て役の花はとても似ている、そう思ったんだ。 小さく、誰かが大事にしないといけない。
「なまえ。」
「なあに。」
「今日、帰ったらそれの花言葉全部調べてみろ。」
「え?」
「どうせ帰っても勉強しねえんだろ?」
「そ、そうだけど…。」
「鈍臭いお前にサプライズだよ。」
「…?」
聞きはしないがどういうことか全く分かってないのだろう。なまえの頬をそっと指先で撫でればくすぐったそうに笑う。 ほんと、無防備な奴だ。少しは抵抗しろよ。勘違いが確信になっちまうだろ。 答えなら全部知っている。でも、こうやって与えるからにはそろそろ見返りが欲しいんだ。曖昧じゃあなく、確実に。いつまでもふわふわと軽くて鈍いなまえには頭を使ってもらわねば。この俺がここまですかしをくらってるんだ、利子をつけて返してもらおうじゃないか。
「花宮くん。」
「あ?」
「ありがとう。」
閉じた瞼は何を想う
(神からの祝福、お前は俺にふさわしいと、切に願う。)
「……バァカ。」
誕生日おめでとう、早く俺のもんになっちまえ。 |