確か君と出会った日も雪が降っていた。雪が激しい、むしろ雪というよりは吹雪といった感じの気候の日に怪我だらけの君は転がり込むように私の家に来て一晩止めてくれと言ったよね。あの時のことは今でも鮮明に思い出せるよ。なんてたってファーストインパクトが強すぎた。あんな出会いは印象深すぎてきっと一生忘れられない。私の脳みそのバンクの一部は君に占領されてしまったよ。 「ねえ、」 まるで君と出会った日のように激しい雪の日。彼は私の家に来た。数年ぶりの再会、数年という時はとても長くて君はとても変わってしまったね。 「なんさ?」 「…おめでとう」 晴れて彼は自分のお爺さんの後を継いだ。ブックマンという職を継いだのだ。長年彼が夢見ていた彼自身の将来像。君にとってそれはとても嬉しいことなのだろう。祝ってあげなければ。そういって自分自身に納得させようとしてもやっぱり腑に落ちない。君はもう私に好意を抱いてくれない。ブックマンに情は不必要なんでしょ?私をもう愛してはくれないのでしょう? 「はは、ありがと」 ああ、ここは変わってないな。数年前と一緒のヘラヘラとした気の抜ける笑い。君が笑っている姿は私とても好きだったんだ。 「…と、…あー…きて早々申し訳ないんだけど…またな、俺、まだ世界回らなきゃいけないから。もう行かなきゃなんねえ」 ヘラヘラと暫く笑って一転、彼は真剣な顔で私に告げる。さっき私を尋ねてこんな果ての国まで来てくれたというのにもう行ってしまうんだね。 「気をつけて、ね」 申し訳なさそうに眉を下げて笑う彼にできる限り元気良く気をつけて、といってらっしゃいを言う。彼はそんな元気な様子の私を見て安心したのかおう!と明るく返事。そして家を出てやはり数年前と同じように鎚を伸ばし雪の中何処かに消えてしまった。 「馬鹿、何が"またな"よ。もうあんたに会うつもりなんて二度とないんだから…!」 溜め込んでいた涙がこぼれる。もう私なんてどうでもいい癖に。ブックマンは特定に情を寄せることを許されないはずなのに。なのに期待させることばかり言って!思わせぶりな性格だけは変わってないのね!と彼がくぐった扉を蹴る。足にジンとした痛みが伝わるがそんなの気にしない。あ、でもね一つだけ悔しいから仕返しをしてあげてるの。君は私に名前を呼ばれることを嬉しがっていたよね。だからブックマンとなり名前がなくなった君のことは絶対に呼んであげないんだ。最高の仕返しでしょ?もう君なんて知らない、嫌い。そう線引きするかのように私は二度と彼の名前なんて呼んであげない。 |