第13回 | ナノ

現在時刻23:50。本日の天気は晴天、夜空は申し訳程度の星がちらちらと見えています。
あと10分で来週が始まる。私は自分にした約束を早くかなえてあげなきゃいけない。
それは、たぶん、私にとっては残酷で、悲しい結果になるだろう。でも区切りをつけなきゃいけない。
八年目は、もういらない。

私の真っ赤な自転車を押しながら目の前を歩く鉄郎は、少しというかかなりお酒臭い。かくいう私も同じ状態なので、鉄郎をお酒臭いと詰ることはできない。偶然出会った私たちは、偶然今日の夜はお互い予定がなかったので、偶然一致した「いま食べたいもの」を食べに行くことにしたのだ。
こんな偶然ってある?誰かが意図的に仕組んでいるなら笑っちゃう。
だって、私はこの偶然に狂喜乱舞しそうなのだけれど、私以外の人間は誰一人として喜ばないはずだからだ。
そんな私が抱いている気持ちになんか気づくはずのない彼は、ケタケタ笑いながら何一つ面白味のない話を面白おかしく語るのに夢中であった。彼の面白いと感じるツボと私がそう感じるツボにはすくなくとも微妙なズレと言うものがあった。それでも、私が彼に抱いている感情は、彼が面白いのであれば私は楽しくあるべきだと私の10%も使えているのか不明な脳ミソに訴えてきていた。
高校二年生の時から抱いているこの甘酸っぱくて切なさを十分に与えてくれるこの気持ちのおかげで、彼が楽しんでいることを一緒になって喜ぶのは得意になっていた。何度か心が挫けたときもあったのだが、そこは意志の強さというやつだろう。エジソンとかガリレオとか、滅茶苦茶頭のいい、あのアッカンベーをしてるオジサンとかも吃驚するであろう一途さではないか。
たぶん、平安時代とかだったら、恋い焦がれて短歌詠んで自殺してるレベルだ。
なんか、私凄いな。と感動していると、鉄郎がいきなり此方を振り返って「キイテマスカー?」と不満そうな顔で訴えてきた。
「あー、ゴメン」
へらりと笑うと、鉄郎は「俺の話を聞けぇ」と腕を振り回す。えへへ〜と笑うと、「いくら優しい僕でも怒ります」と私のおでこを指ではじく真似をする。えへへ〜と私はゆらゆらと身体を揺らす。それを見て、鉄郎がバカみたいに声をあげて笑う。夜も遅いのに、なんて私たちは近所迷惑な大人だろうか。家に居て眠ろうとするときに、酔っ払いの音痴な飛び切り大きな歌やバカ騒ぎする声、アクセルを強く踏み込んで走る車の音とか、すべてが不愉快に聞こえて、なんて迷惑な人たちなのだろうと思っていた。けれども今、私たちがその迷惑な事をしている人たちなのに、寝ている人とか眠ろうとしている人の事なんかお構いなしで、今を楽しみたくて仕方ない。
どうか、だれも邪魔をしないでほしい。
現在時刻23:55。本日の天気は晴天。申し訳程度の星が、じんわりとにじんで見えます。
あと5分で来週が始まる。あと、5分。私は自分にした約束を早くかなえてあげなきゃいけない。
それは、たぶん、私にとっては残酷で、悲しい結果になるだろう。でも区切りをつけなきゃいけない。
八年目は、もういらない。八年目には、さよならをするんだ。
さよなら、私のコイゴコロ。
愛にさせてあげれなくて、ごめんなさい。
「それでさ」
と笑いながら話している鉄郎はとっても楽しそうだ。

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