第12回 | ナノ

※2の内容に触れますので未プレイの方はご注意下さい。


サカキ博士との会話が発端だった。普段は支部長室か研究室に籠りきりの彼がふらりとラウンジに現れたのだ。珍しいと思い声を掛けたところ、彼は研究室を熱心な研究者に占領されていて中に入れなかったのだという。熱心な研究者と聞いて思い当たったのは一人しかいない。その人物は研究を始めると時間も忘れて作業に没頭し、研究室から出てこなくなることもしばしばだ。因みに研究室はサカキ博士の私室だが許された者のみが使用することができる。研究に熱心なのは結構だがその人物はまともに食事も摂らないで研究に勤しんでいるのだと聞き私は眉を寄せた。「出来れば彼を研究室から引きずり出すか、食事を持っていってあげてほしい」とサカキ博士に頼まれ、私は迷わず頷いた。
足早にラボラトリに向かい、研究室の扉をノックすると返事も聞かずに室内に足を踏み入れた。中でモニターと睨み合っていたその人物、ソーマは僅かに目を見開いて顔を上げる。だがそうしたのも束の間、すぐにその視線はモニターに戻ってしまった。

「どうした」
「……」

モニター越しに投げ掛けられた問いには答えず、私は黙って作業をするソーマの姿を見つめる。備え付けられたソファーに座りながら彼を射抜かんばかりに見つめた。時折訝しげな視線を感じたが素知らぬ振りをして無言のまま視線を送り続ければとうとう耐えきれなくなったのかソーマは再び顔を上げて口を開いた。

「何なんだ、用があるんだったら言え」
「…うん。……ねえソーマ」
「何だ」
「ごはん食べよう」
「……飯?」

私の言葉にソーマは眉を寄せる。恐らく食事に誘われる理由が思い当たらなかったのだろう。サカキ博士に朝も昼も食べていないことを聞いたのだと伝えればソーマは溜め息を吐き「余計な事を…」と悪態を吐いた。

「任務から帰ってきてそれからずっと研究室に籠りっきりでしょう、食事を抜いてるだけじゃなくて満足に寝てないんじゃないの?」
「……」
「…図星ね。…一刻も早くアラガミの脅威から人々を守りたいのは分かるよ、でも根を詰めすぎてソーマが倒れたらどうするの?…頑張るのも良いけどたまにはゆっくり休むのも良いと思う。ソーマが休んでる分は私が頑張るし…出来ることは少ないけどね」

苦笑混じりに胸の内でずっと抱えていた思いを伝える。私は研究者ではないからソーマと同じことが出来るわけではない。精々出来ることといえば研究に必要な素材を集めることくらいだ。それでも、何か一つでも彼の負担を減らしてあげたい。私や他の仲間達には一人で全てを背負うなと言う癖に自分では多くの物を背負い込んでいるではないか。言動が矛盾している、と内心で悪態を吐きながらソーマを見れば彼は一つ息を吐いてゆっくりと立ち上がった。まさかこんなにあっさりと折れてくれるとは思っていなかった私は目を丸くしてソーマを見る。対する彼は呆れたような表情を浮かべた。

「お前が言ったんだろ、何驚いてんだ」
「まさかこんなに簡単にソーマが折れるとは思わなかったから…」
「あんな面した奴を無下に出来るわけねぇだろ」
「え?」
「…まあ良い、ほら行くぞ」

先に研究室を出て行こうとするソーマの背を慌てて追いかけた。
ラウンジに着きムツミちゃんに各々好きな食べ物を注文し、食事を待つ間に雑談を交わす。コウタが変な事を言ってアリサを怒らせただとか、ブラッドの隊長さんは意外と天然だとか等、取り留めのない話をした。そうこうしている間に出てきた料理を受け取り、いざ料理に手をつけようとした瞬間、横から「悪かったな」と謝罪の声が聞こえて思わず間抜けな声が口から漏れる。

「……何が?」
「心配かけさせただろ、だから…その詫びだ」
「…うん、あんまり無茶しないでね」
「ああ」

言葉少なに返事をしたソーマは黙々と料理を口に運んだ。心配していることがちゃんと伝わったようで何よりだ。これで少しは無茶をしなくなれば良い、と願いながら料理に手をつける。とはいえそれでもきっと彼は無茶をしてしまうのだろう。ならば彼が無茶をした時は彼の抱える荷物を軽く出来るように努めようと密かに誓った。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -