貴方と出会って、そして別れて数年の月日が経ちました。相も変わらずわたしの住む島は地面も、山も、家の屋根も白い雪で覆われていますが、そちら様はいかがお過ごしでしょうか。楽しい海賊団で美味しい料理を作っていますか?病気はしていませんか?貴方の事ですからきっと他の女性に目をくらましているんでしょうね。 わたしは貴方と過ごした数年前の事を昨日の様に覚えています。 「おっ、この野菜は何だ?」 「そりゃ兄ちゃん、冬島でしか育たない代物よ」 「冬島で育つ野菜か…親父、これ貰うぜ」 わたしが裏で収穫した野菜を洗っているとお父さんが珍しく楽しそうにお客さんと話をしている声が聞こえてきた。裏から少しだけ顔を出して覗いてみると綺麗な金髪をした同年代くらいの男の人が楽しそうにお父さんと話に花を咲かせていた。するとわたしの視線に気付いたらしく、こちらをちらっと見ては目をまるでハートにしたように輝かせ、わたしの元に飛んでやって来た(という表現がここでは一番合っている)。 「麗しいレディー、こんにちは」 「こ、こんにちは」 彼との出会いかそれからだった。最初わたしの右手を優しく取って、挨拶をし、そこからわたしと彼、いやサンジくんは毎日のように会ってはよくお話しをするようになった。 まず彼はある海賊でコックをしているという事。腕はいいらしい。そしてこの島にはしばらく滞在しているという事。 そこから彼との別れの日が近づいている事をわたしは、彼も知っていたのにお互いがどんどん近くなっていくのが見えるように分かった。 ある少し寒さがやわらかい夜、サンジくんはディナーを振舞いたいとわたしを彼の旅をする船に招待してくれた。その日は他のクルーは酒屋で飲み明かしているらしく、船内には彼とわたしの二人だけ。それになんとなく緊張しながらも彼の作ってくれた料理を口に進める。 「サンジくんって本当に料理上手ね」 「そうかい?君が食べてくれるから美味しく作りたくて」 そんな一言にもわたしはドキドキしてしまって、口に進めるスピードがだんだん遅くなっていく。そんな行動に気付いたのか、サンジくんは優しく微笑みかけて、わたしにこう言った。 「好きだよ。本気で」 わたしは何も言うことができなかった。彼が告白した事でわたしと彼の関係が大きく変わる事は無い。でも違うのはお互いの気持ちが分かっているという事。それからも彼はお店に来てわたしと他愛も無い会話をする。変わったのは別れ際に頬にキスをされるようになった事くらい。 いよいよ彼の乗っている船が出航する日になった。この日がいずれ来ることは分かっていたし、それを悲しいと思わないようにするのがわたしと、そしてサンジくんを迷わせないためにする義務だと思ってた。でも自然に出てくる涙は自分の意志とは関係無しに流れ続ける。 「俺、忘れないから」 「わたしも。ありがとう」 わたし達は最後にキスをした。唇が離れる時には涙は止まっていて、わたしは彼に笑いかけた。すると彼もそんなわたしを見て笑って、そして大きく手を振ってこの島を出て行った。 それから数年が過ぎ、わたしは度々貴方との日々を思い出しては物思いにふけています。でもわたしはその物思いを悪い事とは思いません。貴方が恋しくて悲しくも、懐かしくもなります。実は去年、わたしは貴方と出会った後に出会った人と結婚をして、子供も一人できました。今は彼とこの島で元気に暮らしています。 でも確かな事は、わたしも貴方を愛していたという事です。 風花の下 |