静かな夜の事だった。 部屋につるしていた風鈴がチリンとなった。 この風鈴はあの男が置いて行ったもの。 機械に統制された世界でそれを嫌がった槙島聖護の忘れ形見。 いつかは死ぬのだろうと思っていた。 必ずこの男は私を置いて行くのだろうと。 あの人が紡ぐ愛してるはまるでサヨナラの言葉だった。 「満足?勝手に死ねて。聖護なんか一人ぼっちで彷徨ってればいいのよ。」 そう呟いた瞬間、涙が溢れて来た。 「…なんで…、どうして連れてってくれなかったの…!」 数日前、彼は「行って来ます」と言わなかった。 それはつまり帰るつもりが無かったから。 あの時聞いた「愛してる」の言葉は、何よりも残酷だった。 「悔しいから追いかけてなんかやらないから。」 再びカランと風鈴が鳴った。 時雨の夕 「おい。これなんだよ?」 「え?何って慎也知らないの?風鈴よ。」 「風鈴は知ってる。妙に年寄り臭い趣味だな。」 「……昔の男が好きだったのよ。」 「ふぅん。妬けるな。」 あれから五年。 私はと言えば特に何も変わらず生きている。 五年前と変わった事と言えば、横にいる男が変わったぐらいか。 今、私の隣にいるのは狡噛慎也と言う男。 五年前、傷だらけで倒れているのを保護して以来何故だか居着かれてしまった。 男の過去は知らない。私の過去も聞かない。そんな関係が今はとても楽だった。 「毎年、この時期になると思い出すのよ。」 「昔の男を?」 「そう。」 「奇遇だな。俺もこの時期になるとある男を思い出すよ。」 風鈴がチリンチリンと邪魔をするように鳴る。 慎也は絡めていた指を引けばそのまま床へと彼女を押し倒した。 「……その男、なんで今は側にいないんだ?」 「死んだのよ。五年前の今日。」 「……そうか。」 一瞬だけ慎也の顔が曇った気がした。彼女は気付かない振りをしてそっと頬を撫でる。 「慎也は?誰を思い出すの?」 「……五年前。俺がこの手で殺した男だ。」 「……そう。」 それ以上聞きたくなくてどちらからともなく深い口付けを交わした。 (嗚呼……、きっとそれでも私は貴方を想い続けるのだ) |