第10回 | ナノ
鮮やかな橙が薄いカーテン越しに室内へと注ぎ込み、部屋に奥に据えられた豪奢な椅子に腰かけた彼の髪をきらきらと煌めかす。

全く、腹立たしいほど絵になる男がいたものだ。

自分の仕事にひと区切りがついたという彼は、未だ資料と格闘する私を後目に仮眠をとり始めてしまった。
別に私はそのことに文句をつけるつもりはない。既に私が順序を明確に立てて取り組んでいるこの仕事がもう大半済んでいること、そしてここまできていれば下手に他人に手を出されるよりも私がひとりでやった方が効率がよいことを彼はよくわかっているからこそ、こちらに手助けを申し出なかったのだから。それに、あのプライドの高い彼が私の前では安心して寝顔を晒してくれるというのも、なんだか嬉しい。

「自分の仕事の方が大変なくせに…そうやってちゃんと周りも見てるなんて、」

本当に、敵わない。
残りの仕事を一掃すべく手を速めながら、私は思いを巡らせる。

初めて彼を知ったのは入学式のとき。入学当初から派手な振舞いを見せていた彼は一躍学園一の有名人となり、中等部のみに留まらず幼稚舎や高等部にもその名は知れ渡った。
対してそれなりに真面目ではあるものの至って普通で、“多少”気が強くクールだと評される私はそんな彼のことを…初めはかなり嫌っていた。
確かに彼のあらゆる方面で高い能力とその容姿は当時から認めていた。けれど私は彼の言動の派手さをどうにも苦手としていたはずなのに。

「なーんでこんなことになっちゃったんだろう、ね」

偶然生徒会との関わりが大きい委員会に所属し、偶然生徒会と委員会とのパイプ役とでも言えるような仕事を任され、偶然彼と直接の知り合いとなった私は、いつの間にか彼に惹かれるようになっていた。そして今では自分自身が生徒会に入り、名実ともに彼のサポートを務める立場に就いている。

今から思い返してみると、彼に対しての第一印象の根底には嫉妬のようなものがあったような気がする。我ながら、醜いものだとは思うけれど。
比較的地味な努力家タイプで、そのくせ持ち前の気の強さで自分の密やかなプライドを守っているような私の目には、きっと彼の生来の華々しさが憎らしく、そしてひどく羨ましいものとして映っていた。
でも彼との距離が近づいて、彼がその華々しさの裏で重ねている努力を目にするようになって…彼への見方は変わっていった。私が自分の中にある思いの正体を悟る頃には、彼は私との距離を縮めようとしてくれていることにも気がついた。これは後から聞かされたことだけど、彼は私の性格を早々に理解していたらしく私に惹かれていたそうだ。こんなことをさらりと普段の調子で言ってのける彼の余裕にはほとほと心臓を騒がされる。
そして私が初めて彼を知ったときには予想もできなかったような関係を彼と結んだのは、もうしばらく前のことになる…けれど。

そこまで回想を進めたところで、ちょうど資料の仕上げが完了した。
ゆるく息をついた私は軽い伸びをして、ふと彼の方へと視線を向ける。そこには尚眩く輝く髪に彩られた横顔があり、私はそれに誘われるようにゆっくりそちらへと足を向ける。

「…ねえ、景吾」

あなたの派手な振舞いには今でもやきもきさせられることもあるし、あなたのファンから私は快く迎えられていないのを思い知らされることもあるけど。

「私は、そんなあなたの隣でも胸を張っていられるような人になるからね」

きっとあなたは今の私でも十分だと思っているだろうし、だからこそ私を自分の隣にある存在として認めてくれている。そしてそれを私に伝えることだってできる。
でもあなたはそれをしないし、私があなたが瞼を閉ざしている間にこんな言い方をする理由もわかっているはずだから。

「…ああ、」

静かに起された瞼から覗くアイスブルーの瞳が私の瞳と視線を結ぶ。
夕焼けに照らし出されたあなたの淡い笑みが、甘く私の胸を埋めていった。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -