『ほらほらー、もっと早く早くー!』 「ちょお、待ちって!」 『蔵ってば遅いでー!』 「そんな走らんでも、そんなすぐ夜は明けへんでー」 『だって早く見たいやんか…っ、わぁー!』 星がキレイに見える場所がある。 それを友達に聞いてから行きたいって蔵ノ介に言ってみたら「じゃあ、今から行くか」って言う話になって来てみた。 『きれい…』 少し開けた高台で空を見上げると満天の星空が広がっていた。 「ほんま、大阪でもこんなキレイに星が見えるとこあるんやなー」 一歩遅れて私の横に立った蔵ノ介も空をただただ見上げてる。 『なんか吸い込まれてしまいそうなぐらいに広い星空やな』 ぐーっと手のひらを空へ向けて伸ばしながら蔵ノ介の方を横目で見ると、彼は空から私に視線を落とした。 「お前は俺の横に居らなあかんねんから、夜空へ飛んで行かんといてや?」 織姫とかかぐや姫みたいに。 とくすり、と小さく笑いながら言う蔵ノ介に私は行かないよ、と返してまた空を見上げた。 「なぁ、誰も居らんし寝転んで見やん?」 『おー、良いね!』 「ちょお待ちやー…ほら、ここ寝転び?」 さり気なく鞄に入っていたテニス部のジャージを地面に敷いてくれる、そんな事がさり気なく出来る蔵ノ介がやっぱり好きだなぁ。 なんてぼんやり考えてるとやっぱり頬が熱くなってくるから、その熱を逃がすみたいに慌てて地面に寝転んだ。 『やっぱり、きれいやな…!』 「ほんまやな、きれいや…」 『ねぇ、さっきちょっと言ってたけどさぁ。 …もし私がかぐや姫みたいに月に帰らなきゃ行けない、って言ったらどうする?』 すぐ左側で寝転んでる蔵ノ介の方を向くと、すでに彼はこっちを向いていた。 「もちろん、帰らせへんで?」 『うーん、それでも帰らなきゃ行けなかったらどうする?』 少しだけ困った様に笑ってからまた空を見上げた蔵ノ介の顔はやけにキレイに見えた。 「…もしも」 『んー?』 「もしも、世界中を敵にまわしたとしても俺はお前を離すつもりはない」 『…蔵』 夜空から私に移された瞳はただ真っ直ぐに私を捉えて離さない。 「…とか、ちょっとクサいよな?」 『…いや、かなりグッときた!』 ふっと緩んだ蔵の顔に、私も小さく笑うと優しく左手を包まれた。 「ずっと、一緒やからな」 『もちろん!…ずっと、よろしく!』 暖かい手のひらを握り返して、また2人で瞬く星を見上げた。 かけがえのない左手 (ずっと、ずっと、キミと。) |