「私はあんたに絶対にあんたに惚れない自信がある」 夕暮れ時の学校の帰り道、秋が終わり冬がやって来るような身に染みる寒さに耐えながら少し歩みを速めて歩く。その横には私の歩幅に合わせて歩く黄瀬が驚いた表情で私を見てくる。 「え、ちょっ、急になんなんすか?」 「急でもないっての、いつも思ってたことを言ったまでよ」 「尚更悪いっすよ!!」 ちょっと不満げに唇を尖らせて言う黄瀬を軽くあしらって私は変わらず歩みの速度を変えない。 「だって黄瀬あんたは容姿だってスポーツだってなんだって完璧じゃない」 「まぁ、そうっすね」 「そんな完璧人間と付き合ったってつまんないじゃない」 「……………」 何か言いたげな表情だったが私はあえて知らないふりをする。大抵こんな顔をする黄瀬は拗ねてる時だ。でもなんだかその顔は可愛らしくて面白くて思わず笑ってしまった。 「笑うことないじゃないっすか〜!」「ごめんごめん、なんだか拗ねてる黄瀬が可愛くてついね」 「…なんすかそれ」 まだ腑に落ちないのか黄瀬は寒さで赤くなった鼻先をマフラーで覆い顔を背ける。今年の冬も寒い。吐いた息も白くなり乾いた空気に溶け込む。指先も寒くて感覚がなくなってくる。 「ねぇ、黄瀬」 「なんすかー?」 「私は黄瀬に惚れないけど、でもね黄瀬の事は普通に好きだよ」 「…………」 「バスケしてる黄瀬とか特にきらきら輝いていて私は好きかな」 「…………」 ずっと黙りこんでる黄瀬の変化におかしく感じ覗きこむように黄瀬の顔を見てみるとぽかんと拍子抜けた表情だったがどんどん顔が赤くなって「なっ、なな…!?」っと戸惑っていた。 「どうたのよ、そんな顔して」 「だ、だっていきなりそんな…あぁ〜〜!!」 黄瀬は頭を抱えてその場にしゃがみこむ。そしてまだ唸ったり何かぶつぶつと言っている。いきなりの行動に少々驚いたがそんな不振行為をしてると一緒にいるこっちまでが変な目で見られる。なんとしてもそれは避けたいので黄瀬に近寄り話し掛ける。 「おーい、黄瀬」 「…………」 「ほら立って、暗くなってきたし早く帰るよ」 「…………」 唸ったりぶつぶつと呟くのを止めたのはいいのだが黙ったまま全然反応をしめさない。本当にどうしたんだ一体。呆れてため息も出ない。 「先に帰っちゃうよ」 「…………」 こうなったら放っておくのが一番だ。踵を返して帰ろうとしたその時、片腕を捕まれて引っ張られる。咄嗟のことでなにがなんだか分からない私はされるがままにそのまま引かれた方にいき抱きしめられる。 「ずるいっすよ」 「……黄瀬?」 抱き締めてきたのは黄瀬だった。胸板に顔を埋めているから黄瀬の顔は見えないが抱き締めてくる腕の力が強くなったが分かった。 「なまえっちはいつもずるいっす!!人の気持ちも知らないでそんなスラッといいのけちゃって!!」 「は?」 「もういいっす!俺、決めた」 黄瀬は私の体を解放して向き合うような体勢でこっちをその大きな輝いてる瞳でこちらを見つめる。その瞳があまりにもまっすぐだから目をそらせなくて私も見つめ返した。 「決めたって何を?」 「なまえっちが俺を絶対に惚れないなら、俺はそれを覆して絶対に惚れさせてみせるっすよ!!」 自信に満ちたその笑みで黄瀬は宣言してきた。なんなのよその笑顔は。ムカつくくらいふにゃりと笑うものだから思わず何も言い返せなくなってしまった。あぁ、もう今日は黄瀬に振り回されっぱなしな気がする。だけどなんだか黄瀬に振り回されっぱなしなのはなんだか嫌だったからそっけない態度をとる。 「へぇ、せいぜい頑張れば?」 「そのつもりっすよ、あ、なまえっち」 「なによ」 「大好きっす」 「…あっそ、」 私は黄瀬の事は普通に友人として人間性が好きだけど惚れたりはしない。だけどそんな風に笑って言われると無駄に容姿がいい黄瀬だからか多少はかっこよく見えた。だけどそんなこというと調子に乗るに決まってるからいってあげない。 |