こんなことなら屋上にでも行ってるんだったなと俺はため息をつきながら資料室へ向かっていた。 昼休み、昼食を終えた俺は友達数人と他愛ない雑談をしながら盛り上がっていたのだが、教室に来た担任教師に次の授業で使う資料を運んでおいてくれとたまたま視線の合った俺に言ってきた。文句を言おうにも担任はすぐに職員室に戻ってしまい、残された俺は友達にご愁傷様と言われてからかわれた。 「おまえついてねーな」 「うるせーよ」 今日の運勢は悪くなかったように思うが、やっぱり占いなんてあてにならないなと大きくため息をついた。 それが数十分前に起きた出来事だ。あの後、俺は友達に見送られ、重い足取りで資料室までの廊下を歩いている。もう片手くらいはため息をついたはずだ。幸せが逃げるなと迷信じみたことを考えていると、ふと中庭が目に留まった。ここは教室から大分離れているため教室移動の授業でない限りあまり目にしない場所だ。 草木が風に揺れて、気持ちよさそうに日光浴をしている。あの日影で昼寝でもしたらさぞかし気持ちよく寝れるはずだ。 「………」 まだ、授業がはじまるまで時間は十分にある。少しだけなら中庭でのんびりしたって誰も文句は言わないだろう。資料室には後から行けば間に合うなとはじめて踏み入る中庭に足を一歩進めようとしたその瞬間、校舎と樹齢何十年か解らない立派な木の陰に同じクラスの奥村雪男と見知らぬ男子生徒がいた。こんな人気のないところで何をしているんだと思ったが、二人のまとう空気は俺の知っているものではなくて、何やら異様なものを感じた。どうしてかは解らない。でも見てはいけないような気がした。 俺は中には入らず、二人の様子を窺うことにするがそんなことを考えた数秒前の俺を殴ってやりたい気持ちになった。なんとあの二人………キスをしたのだ。雪男がその男子生徒を壁際に押し付けて、角度を変えて求め合うような激しいキスをしている。俺は見ていられなくて、必死に走って資料室に逃げ込んだ。乱れた息を肩を上下させながら整える。資料室に俺の荒い息遣いが響いた。 「はあ…」 漸く落ち着きを取り戻し始め、息も整ったころ、俺は泣いていた。どうしてかは解っている。 俺は学園に入学して、初めて雪男を見たその時にあいつに目を奪われ、同性だと解っていながら好きになってしまった。所謂、一目惚れというやつだ。男を好きになるなんて初めてで、どうすればいいかなんてまるで解らなかったから、この思いは秘めたままでいようと誓った。それなのに、まさかあんな光景を目の当たりにするなんて……。 「はは、今日……ほんと最悪だな。運、悪すぎだろ」 流れ続ける涙をそのままに、俺はぼんやりとあの二人の姿を頭に浮かべた。 |