透き通る美声


「…紫苑」

紫苑の頬を流れる涙を丁寧に掬いとり、ネズミは囁く。

「おれが悪かった。だから…泣かないで」

しゃくりあげながら、紫苑は頷く。
だが、涙は一向に止まる気配がない。
ネズミは優しく紫苑の背を撫でてやりながら、穏やかなメロディーを口ずさみはじめた。





そうして、だんだん涙が収まってきた頃、紫苑はごめんと呟いた。

「ネズミ…ごめん」

ふっとネズミは微笑み、からかうように言う。

「もしかしてあんた、処女?」
「え?それ違うよ、ぼくは男だから童貞っていうべきじゃ」
「…なるほどね」
「え?」

わけが分からない、というふうに紫苑は首をかしげる。

「あんた、本物のお坊っちゃんだったんだな」
「だから、お坊っちゃんじゃ…」
「はいはい」

ひらひらと手を振って軽くいなし、ネズミは紫苑に背を向けてベッドに横になった。

「もう遅い。寝るなら早く寝れば。大丈夫、何もしないから」
「…きみは」

ごそごそと紫苑もベッドに潜り込みながら、一人言のようにネズミに聞く。

「きみは、よくこういうことするの?」
「は?」
「なんか、慣れてるから」
「そうだな…」

ネズミは忍び笑いをし、紫苑の髪に触ろうと寝返りを打つ。しかし間近に紫苑の瞳と視線がかち合い、いささか驚く。紫苑はこちらを向いて横になっていた。

「ネズミ」
「…なんだ」
「きみに惹かれている」
「……は?」

突拍子もない告白に、さすがのネズミも面食らう。
一瞬、仕返しにからかわれているのかと思ったが、紫苑の表情は真剣そのものだった。

「だから、こんな形じゃなくて…本当に、借りは返すから」
「…そ。期待しないで待ってるよ」
「うん。じゃあおやすみ、ネズミ」

紫苑が手を伸ばして、スタンドの電気を切る。
パチン、と音がして、部屋は真っ暗になった。


《ピピピピ、ピピピピ》

…はい、もしもし?

紫苑、久しぶり…ってまだ3日しか経ってないけど

ネズミ?ぼくの携帯の番号、なんで知ってるの?

ふふっ、秘密。ところで、あんた、無くし物に気づいたかな?

えっ。…あ、…まさか!ぼくの生徒証…きみが持ってるの?

ご名答。返してほしい?

ああたり前だよ!

じゃっ、今度の日曜は、おれとデートね

ええっ

そん時、ちゃんと返してあげるから、ふふっ




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