本気にさせた罪は重い


ネズミは、自室のベッドに寝転がる。
少しだけ湿った髪をかきあげ、仰向けになって天井を見上げた。

髪以外は乾いて全く濡れていない。
紫苑が戸口まで傘を差しかけて送ってくれたためだ。

ふふふ、と笑みがこぼれる。

あんたは、優しすぎる。
そんなんじゃ、勘違いする奴がたくさんできるぜ。
かく言うおれも、犠牲者の一人。
でもおれは、勘違いで終わらせない。
あんたを振り向かせてみせる、必ず。
覚悟しとけよ。

くっくっくっ。

ネズミは寝返りをうち、枕に顔をうずめて楽しそうに笑った。


重い


翌日はよく晴れ、頭上には雲ひとつない青空が広がっていた。
昨日の湿気はどこへやら、空気はからりと乾いて軽い。
ネズミの心も軽く、小さく唄のメロディーを口ずさみながら通学路を歩く。

「ご機嫌だな」
背後から声がした。
ネズミは振り向かない。振り向く必要もない相手だ。

「気を付けた方がいいんじゃない、おっさん。変質者かと思っちまった」
「それはどうも」
「褒めてないぜ」
「ありがとう、褒め言葉として受け取っておくよ、ネズミ君」

名を呼ばれた不快感にネズミが立ち止まった隙に、羅史はネズミを追いこす。
追い越し際に、ぽん、とネズミの肩を叩く。
肩にかかった重み。それは、まぎれもなく牽制。
ふふ、と笑いがこぼれる。

あんたも、苦労してんだな。

大人として生きることに馴れた羅史は、露骨な感情表現はしない。

だから、あんたには無理だよ。
あんたには、紫苑を理解することもできないし、きっと紫苑もあんたを理解しない。

黒いスーツの背中をぼんやり見ながら歩く。
そうやってゆっくり歩いていたら、いきなり背中をどつかれた。
突進してきた小さな生徒はネズミの前に転がり出ると、白い歯を出してにやりと笑う。
半袖の白いセーラーからのびた小麦粉色の細い腕が、ネズミの背中を強く叩いた。

「背中がら空きじゃねぇか、おまえさんらしくもない」
「なんだ、イヌカシか。おはよう」

憎まれ口に応酬することもなくネズミが微笑むと、イヌカシはびっくりしたように目をしばたいた。

「どうした?今日は上機嫌なんだな」
「なんだ、イヌっころにも分かるのか」
「なんか…オーラが不気味だぞ。変な奴にからまれるぞ」
「あ、さっき絡まれたな」
「ああ?誰に?」
「羅史」
「あぁ、あいつか。最近やたらおまえさんに風当たり強いよな」
「え、そうか?全然知らなかった」
「授業中も、やたら当てられてんじゃん」
「あっ、なるほど。でもおれ、頭いいから」

トントン、と人差し指で自分の頭を軽く叩いて見せる。
冗談抜きで毎回テストに苦労しているイヌカシは、思いっきり鼻の頭に皺を寄せた。


うわっ、やっべ、遅刻しちまう!
ネズミ野郎としゃべくって遅刻とか、冗談じゃないぜ

おまえが話しかけてきたんだろうが

じゃっ、おれは先行くから!
おまえさんも、せいぜい頑張って走れよ!

はっ、スカート短すぎんじゃないの
走ると見えるぜ?

ばっ…、こっち見んな!




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