03


とぼとぼと学食から出たところで、沙布と鉢合わせた。

「あら、紫苑!」
「沙布。これから帰り?」
「そうよ、帰りに莉莉のところに寄っていくわ。紫苑も行きましょ」

沙布は昼休みの時と変わらない笑顔で笑う。

「うん、行こう」

紫苑も、沙布に合わせて笑った。


「来てくれたんだ。嬉しい」
起き上がることはまだ出来ない莉莉は、ベッドに横たわったままそう言って破顔した。
以前真っ白だった顔色には血の気がさし、瞳には生気が宿っている。

ああ、莉莉は生きている。
沙布が、生き返らせた。

「莉莉!気がついて良かったわね」
「うん。あのね、沙布。私、とっても長い夢を見ていたみたい」
「え?」
「詳しくは…思い出せないんだけどね」
「そう。でも、戻って来てくれて、良かった。本当に良かったわ。お医者さまは何て?」
「まだリハビリは必要だけど、一週間くらいで復学できるって」
「一週間?早いのね」
「うん、倒れていた期間が短いから」

にこっ、と莉莉は微笑む。
陰のない笑顔を見て、紫苑もなんだかほっとする。
一歩前へ出て、声をかける。

「莉莉、リハビリ頑張ってね。学校戻って来るの、楽しみにしてる」
「ありがとう、紫苑」

そこへ看護師が入ってきて、面会時間の終わりを告げた。



「あれ?沙布、帰らないの?」
家路とは違う方角へ歩き出した沙布に、紫苑は戸惑う。

「ううん、その前に、魔女探しなの。ほら」
沙布はソウルジェムを手のひらにのせる。

「それじゃあ、ぼくも行くよ」
思わずそう言っていた。

「え?」
「あ…いや、ぼく何の力にもなれないし…迷惑だったらいいんだけど」
「そんなことないわ!しお…」

『でもそれは危険だよ、紫苑』

フェネックの声が割り込む。
どこにいるのだろうと視線をめぐらせると、塀の上を軽やかに走ってフェネックが現れ、沙布の肩に飛び乗る。

『きみは、もう関わらないって、決めたんじゃなかったかい?』

「あ…いや」

口ごもる紫苑のかわりに弁解するように、沙布が口を挟む。
「でも、紫苑がいると思えば、わたしも無茶をしないし、安心するわ」

『そうかい?ちゃんと、考えがあるならいいんだ』

フェネックはあっさり頷き、さらりと付け加える。

『君がいることで、最悪の事態に備えた切り札をひとつ、用意することができるしね』

「ちょ…、それはどういうこと?紫苑は契約しないってもう決め…」

聞き捨てならない言葉に沙布が息巻くが、その時ソウルジェムが鈍く輝いた。

「沙布!ソウルジェムが反応してる!この辺りに魔女が?」
「…でも、魔女より反応が薄いわ。遠いのかしら」

『いや、きっとこの辺りだよ。その反応は使い魔だ。どうする、沙布?見逃すかい?』

「まさか。使い魔だって成長すれば分裂元と同じ魔女になるんでしょ。今のうちにやっつけてしまうわ!」



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