05
恐怖に急き立てられ、オフィス中を逃げ回る。 魔女に操られた人々の足は、思いの外速かった。 息を切らして、小部屋に飛び込み鍵をかける。
ドンッ、ドンドン。
ドアが蹴られ殴られる。鍵をかけたドアが軋む。 紫苑はドアにもたれ、ずるずると背中を滑らせ座り込んだ。
このドアが蹴破られるのが先か…人々が正気に戻るのが先か。 後者の可能性は極めて低いだろう。
震えながら膝をかかえる紫苑の目に、光が映った。
え?
小部屋に無造作に積み上げられた古ぼけたパソコンの画面が光っていた。
ジリジリッ、と音が聞こえる。 チラッと画面の中で何かが動くのが見えた。 閉め切られた無風の小部屋に、旋風が巻き起こる。 その中心は、古いパソコン。 紫苑は風に巻き込まれ、パソコンに吸い込まれる。 風が身体中に吹き込む。どんどん、身体が膨らむ。風船のように丸く膨らむ。やがて風量が限界を超える。
パチンッ。
風船の割れるような音がして、体が弾けた。
紫苑は、かたく閉じた瞼をゆっくり開けてみる。
大丈夫…ちゃんと体はある。 でもよく見ると、自分の体と空間との境界線は曖昧で、不思議な感じがする。
紫苑は魔女の結界に放り込まれていた。 この結界には「地面」がなかった。宇宙空間のように無重力の空間を、ぷかぷか浮いている。 羽根の生えたマネキンのような姿をした使い魔が、ケタケタ笑いながら飛び回っている。 使い魔は唄う。
ウコイテッモモウトンベオハドンコ! ウコイタマ! ネタッカシノタモテットハウョキ!
他にも、旧型のパソコンやらブラウン管のテレビが浮いている。 それらの全てに電源が入っていて、映像を映し出していた。
沙布と一緒に山勢さんの家を訪ねたところ。 山勢さんが薔薇園の魔女の退治に成功して笑った瞬間。 お菓子の魔女と戦う山勢さん。
あっ…
紫苑は気付く。
これは、罰なんだ。 ぼくが、いろんなものから逃げてきた事への、罰なんだ。
もう、ぼくを助けてくれる人はいない。 そんな事を望む資格さえ、ない。 ぼくは、魔法戦士になるべき、だったのに。 怖くて、逃げたから。 ここで魔女に喰われるのは…当たり前の罰なんだ。
使い魔が紫苑に寄ってくる。手足を掴まれる。引っ張られる。体が伸びる、伸びる、伸びる。 ああ、このままではちぎれてしまう。
ウコイテッモモウトンベオハドンコ!ウコイタマ!ネタッカシノタモテットハウョキ!
→これは、ひっくり返すと、
今日はとっても楽しかったね!また行こう!今度はお弁当も持っていこう!
…になります。 アニメでは、この言葉が逆再生されています。
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