07
「…紫苑が席を外してくれて助かったわ。沙布、あなたと話したいと思ってたの」 「あら、看病の感謝の気持ちなら、さっき聞いたわよ?」
紫苑が去った病室で、莉莉は思いの外真剣な声音で話し出した。
「うん…あなたには、本当に、本当に感謝してるの。身内より親よりも、わたしの事を気遣ってくれて、同い年なのに、沙布はわたしのお姉さんみたいだった」
ぽすん、と莉莉は軽い音をたてて、起こしていた半身をベッドに横たえた。莉莉は真っ白なベッドに身を沈め、天井を見つめながら沙布に語る。
「沙布、あなたは間違いなくわたしの一番の親友よ。でもね、沙布、わたし、あなたにも話してない秘密があるの」 「え…あ、うん」
莉莉の真剣さに気圧され、沙布は間抜けな相槌しか打てない。
「沙布…あのね、わたし、紫苑が好きなの。一目惚れみたいだったわ」
ワタシ、シオンガ スキナノ。
その言葉が耳から脳に伝達され、その音の羅列の意味を沙布が理解するまで数秒かかった。 ようやく莉莉の言葉を咀嚼し、沙布が発した声は惨めに掠れていた。
「そ…そうなの、全然知らなかったわ。あなたって、意外と口が堅いのね。それにしても紫苑たら、こんな可愛い莉莉を惚れさせるなんて、隅に置けないわね」
沙布の反応を注意深く観察していた莉莉は、会話の脈絡をほぼ無視して話を続けた。
「わたし、死にかけたでしょ。病院で、白い天井を見つめながら、あるいは昏睡状態の夢の中でもそうだったかもしらない、強く思ったの。自分の本当の気持ちと向き合おう、後悔しないように生きようって」
沙布、あなたはどう?紫苑のことが好き?本当の気持ちと向き合えますか?
沙布を見上げる莉莉の眼は、あたかもそんな言葉を沙布に投げ掛けているようだった。沙布は混乱する。
「そう…。でも、なんで、わたしにそんな話を…」
沙布の頭も心も、すでに許容量が限界に近かった。
「沙布…あなたはわたしの大切な親友。だから、騙すことも抜け駆けすることもしたくないの」
莉莉の言葉が、沙布の体の中に空虚に響く。
「わたし、明日の放課後、紫苑に告白する。明日の夕方退院出来るから、それから学校に行って、いちばんに紫苑の顔を見るわ。そして、想いを伝えるの」 「そう…なの…」 「沙布は、紫苑と幼馴染みだったよね?紫苑を見つめていた時間は、わたしより沙布の方が長いから…沙布、あなたにはわたしの先を越す権利があると思ったの。だから、わたし、こんな話してるのよ」 「…え?」 「沙布には丸一日猶予をあげる。その間に決めてちょうだい、」
…紫苑に想いを伝えるかどうかを。
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