06


廃墟を後にした沙布の足は、知らず知らずのうちに、莉莉の入院している病院に向かっていた。

莉莉、あなたはわたしの希望の光。
あなたが明るく笑っている姿を見たら、後悔なんてしない。
わたしがこの命を救ったのだのと、誇りに思える。

莉莉がもし起きていたら、彼女と話して、イヌカシとの対話で揺れた心を少しでも落ち着かせよう。もし寝ていたら、その健やかな寝顔を目に焼き付け、魔法少女としての決意を固めなおそう。

…そう、思っていたのに。


「あ、沙布!」

病室から楽しそうな談笑の声が漏れ聞こえていたので遠慮なく入室すると、そこにいたのは莉莉と紫苑だった。紫苑は病室のドアに背中を向けて座っていたため、ベッドから半身を起こしていた莉莉の方が先に沙布の姿に気づいた。

「…紫苑、来てたのね」
「うん、学校帰りに。…沙布、大丈夫?」

そう聞かれて初めて沙布は、今日が平日だということ、自分が学校を休んでしまったことに気付かされた。
それと同時に、紫苑の本当に心配そうな顔を見て、昨日明かされた魔法少女の実態についての気遣いを感じ、ほんのりと心が暖かくなる。

「ん?沙布、どうかしたの?」

何も知らない莉莉は、紫苑と沙布の顔を交互に見て、小首を傾げる。
沙布は明るく笑って見せる。

「あら、平気よ、今日ちょっと学校休んじゃっただけで」
「えっ、沙布が欠席?珍しいのね、体調悪いの?」
「ありがとう莉莉、でもご心配なく。ただの寝坊よ。あなたはあなた自身の体の調子を取り戻すことだけを考えなさいな。九死に一生を得たんだから」

冗談めかしてそう言うと、莉莉はころころと小さくはあるが生気のある笑い声をたてた。

「そうね、ありがとう沙布。わたしが昏睡してる時はたくさんお世話になったみたいで…本当に感謝してるの」

無邪気な莉莉の言葉に、紫苑の眉が僅かに悲しそうに下がる。
彼の表情の変化に気付き、沙布は反対にいっそう笑顔を明るくし、頷いて見せる。

「…じゃあ、沙布も来たことだし、ぼくは帰るね」

そう言った紫苑は立ち上がり、自分が座っていた来客用のパイプ椅子を沙布に差し出す。

「またね、莉莉、沙布」

紫苑は彼らしい柔和な微笑みの表情をつくり、病室から出ていった。
沙布とすれ違う時に、「ロビーで待ってるよ、今日も魔女退治、行くんでしょ?」という囁きを残して。


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