04
「親父は、孤児だったおれを引き取って育ててくれた、神父だったんだ。おれと同じような境遇の子どもたちが、何人かいた。みんな、血は繋がらないけど本当の家族だったよ。
親父はね、正直すぎて優しすぎる人だった。毎朝新聞をみるたび、どうして世の中が良くならないのか、本当に涙を浮かべて真剣に悩んでるような人でさ」
そう語るイヌカシの瞳からは、普段の険しさが消え、優しい色になっていた。父を語るイヌカシの柔らかい表情から、彼の人柄の良さまで、伝わってくる。
「新しい時代を救うには新しい信仰が必要だって、それが親父の言い分で…、ある時親父は教義にないことまで信者に説教するようになった。…すると、信者の足はぱったり途絶え、本部からも破門されちまった。
誰も親父の話を聞こうとしなかった。当然だよな、端からみれば胡散臭い新興宗教さ。どんなに正しいことを、当たり前のことを話そうとしても、世間じゃただの鼻つまみ物さ…… おれたちは一家揃って食うにも事欠く有り様になったよ。
納得できなかったよ。だって、親父は間違ったことはひとつも言ってなかったんだぜ?…ただ、ひとと違うことを話しただけだ。
5分でいい、ちゃんと耳を傾けてくれれば、正しいことを言ってるって、誰にでも分かったはずなんだ。 なのに…誰も相手にしてくれなかった。
悔しかった。許せなかった。誰もあの人のことを解ってくれないのが、おれには我慢できなかった。
───だから、フェネックに頼んだんだ。 みんなが親父の話を、真面目に聞いてくれますようにって。
翌朝には、親父の教会には押し寄せる人でごった返していた。毎日、おっかなくなるほどの勢いで信者は増えていったよ。
そしておれは晴れて魔法少女の仲間入りさ。 いくら親父の説法が正しくったって、それで魔女が退治できるわけじゃない。だからそこは、おれの出番だって、馬鹿みたいに意気込んでたね。
親父の説法とおれの魔女退治、表と裏からこの世界を救うんだって…
でもね。そうは上手くはいかないもんさ。 ある時、ひょんな事でカラクリがばれちまった。
大勢の信者がただ信仰のためじゃなく、魔法の力で集まってきたんだと知った時、親父はぶち切れたよ。
それまで本当の娘みたいに可愛がっていたおれを、人の心を惑わす魔女だと罵った。
笑っちまうよな。こっちは毎晩、本物の魔女と戦い続けてたってんのにさ。
それで…親父は壊れちまった。 もとが正直すぎて優しすぎる人だったからさ、魔法なんて許せなかったんだ。うまく気持ちに折り合いをつけることが出来なかったんだな。 酒に溺れて頭がイカれて…最期は無残なものだったよ。 勘当したおれだけを残して、親父は家族と無理心中さ。
…おれの祈りが結局、大切な人を壊しちまったんだ。
他人の都合を知りもせず勝手な願い事をしたせいで、誰もが不幸になった」
だからその時、おれは心に誓ったんだ。 二度と他人の為に魔法は使わない、この力はすべて自分のために使いきるってね。
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