02
「ネズ…ミ。来て…くれたんだ」
楽屋に運び込まれソファーベッドに寝かされた紫苑は、熱に浮かされながらも嬉しそうに言う。 対してネズミは苦しそうに顔を歪め、馬鹿と言った。
「ばか。なんでそんなに無理すんだよ」 「え?無理なんてしてないよ?」 「嘘つけ。こんなに高熱出してぶっ倒れといて、無理してないだと?笑わせるにもほどがある!もっと自分を大切にしろよ紫苑…!」
一気にまくし立て、荒く息をつく。 紫苑は目をしばたきネズミを不思議そうに見ると、ふっと優しく微笑んだ。 ベッドから半身を起こした紫苑に抱き寄せられ、幼子をあやすように、ぽんぽんと背中を撫でられた。
「ネズミ、落ち着いてよ。ぼくは大丈夫だよ、明日にでも熱はひく」 「でも紫苑、おれは…あんたがいつか消えてしまわないかと…」 「ははっ。そんなに病弱じゃないよ。ネズミは心配性だなあ」 「心配にもなるだろ!いくらなんでも、あんたは無理しすぎだ!ファンのことを考えるならもっと体を大切に…」
おれはいつも不安だ。 頑張りすぎて自分を酷使しすぎる紫苑が、二度とおれの手の届かない所へ行ってしまわないかと。 不安で不安でたまらないんだよ、紫苑。
ネズミの目から、ぽろぽろと涙がこぼれる。 紫苑はそれを人差し指で優しく救いながら、ネズミを安心させるように明るく笑った。
「だから、大丈夫だって。それにね、ネズミ。皆のためとか、そんなんじゃないんだ」
熱で火照った紫苑に抱き締められる。高ぶっていた感情がだんだん落ち着いていく。
なんでおれが、病人の紫苑に慰められているんだ。 普通、逆だろ。 己の不甲斐なさが、悔しい。
「ネズミ。これは義務なんだ」 「義務?」 「芸術は、人の心を癒し、解放し、高める。アーティストには、持っている才能を社会に貢献し、奉仕する義務がある。…これはね、19世紀の偉大な音楽家、フランツ・リストの言葉だよ」 「…ふぅん」 「もちろん、それだけが理由じゃない。ぼくは弾くことが、純粋に楽しい。生きてる、って感じることができるから。ネズミも、そう思うとき、あるでしょ?」 「…紫苑」
立ち上がり、紫苑をベッドに寝かす。
「分かったよ。あんたの並々ならぬ熱意はよく分かった。でも、おれはやっぱり、あんたに元気でいてほしい。今日はおれ、車で来てるから送っていくよ」 「うん。ありがとう、ネズミ」
紫苑は花が咲くように、ふわりと笑った。
fin.
大事に大事に温めすぎて、当初のコンセプトを見失ってしまいました。 埒があかないので、不満足ながらもupしました。 実はこれ、「精神不安定なネズミとそんなネズミを優しく包み込む紫苑」のテーマでリベンジだったりします…。 リベンジなのに…あれ? もう何が何だか分からないシロモノに…これまじで何が言いたいのって文になっちゃいました…orz なので勝手に捧げることも出来ず…でも精神不安定ネズミさんが美味しすぎるので、これからも書き続けていこうと思います^^ お粗末さまでした!
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