03


静まりかえった廊下に、足音が木霊する。
沙布は、自分の足音に耳を塞ぎたくなる。

だって…足音は…魔女の結界内を想起させるから。
あの残酷な山勢の最期を、否応なしに思い出してしまうから。

いっそ、歩みを止めてしまおうか。
もとからあそこに、行きたくなんて、ない。

今沙布が向かっているのは、莉莉の病室。
莉莉の主治医から、まだ帰国しない両親の代わりに沙布が呼び出されていた。

莉莉はまだ目覚めない。
ずっと昏睡状態で。

莉莉がそんな状態で、医者が何を言う?
よくない事に決まっている。

沙布は震える手で、莉莉の眠る個室ドアの取っ手を引く。
スーッと音もなしにドアがスライドする。

「こんにちは、沙布さんですね。お待ちしていましたよ」
眼鏡をかけた、どこか冷たい目の医者が待っていた。

そして続けられた言葉はやはり、望まないもの。

「莉莉さんの事ですが、彼女はもう、奇跡か魔法でもない限り目覚めることはありません」

莉莉に取り付けられた機材が、莉莉の心音、呼吸を測定している。
腕に挿された点滴針は、一定の速度で莉莉に栄養を送る。

彼女が、生きている限り…生きてさえいるならば。

沙布は叫んでいた。
「奇跡も、魔法も、あります!」

そうよ。
奇跡も、魔法も、あるんだよ。
だから、もう一度目を開けて、莉莉。


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