03


たが、覚悟した痛みは襲ってこない。かわりに、ドサッと重い音がすぐ側で鳴り、地面から振動が伝わる。不審に思って目を開くと、そこにはいましがたネズミに拳を浴びせようとしていた大男と、そいつを足蹴にするサソリの姿があった。大男はすでに気絶していた。

「おまえ…いつ、」

紫苑を腕の中に抱えたまま、ぽかんとネズミはサソリの痩身長躯を見上げる。

「ついさっき。粋がって三人も相手取んなよ、ネズミ。己を過信するな」

サソリは砂色の髪を揺らせ、さも可笑しそうにくつくつと笑い、嘲った。これは先日からかったお返しだろう。
ふん、と鼻を鳴らして応酬する。

「雑魚の三人くらい、」
「いつものおまえならな。だが、」

そのお荷物は何だ、と言ってサソリは顎で紫苑を指す。

「そいつを庇ったまま立ち回れるほど、おまえは強くない」

すっとサソリは目を細める。瞳から表情が消える。生命を拒絶する冷たい色。

「商売道具の顔、潰されるところだったんだぞ。分かってるのか、ネズミ。あのパンチが直撃したら、頬と顎の骨とくらいは折れていた。この、馬鹿が」

事実だ。言葉も出ない。
ネズミが黙りこむと、それまで一言も発しなかった紫苑が、震える声でごめんと呟き俯いた。
あんたは悪くない、気にするな、と柔らかく囁き、白髪をかき混ぜ、あやすように背中をぽんぽんとたたく。

その様子を冷めた視線でちらりと一瞥し、サソリは先程自分でノックアウトさせたスキンヘッドの頭を、足で蹴りあげる。

「ぐっ…」

目を回しながら意識を戻した男のこめかみに、スーツの内ポケットから無造作に取り出した銃を突き付ける。

呆気に取られるネズミと紫苑の前で、サソリはスキンヘッドの頭を土足で押さえつけたまま凄む。

「今夜はどうも、けっこうなご挨拶を。後日、うちの店からもコンクという者が無礼の詫びに参りますから」

ひっ、とスキンヘッドは見掛けに似合わない弱々しい声をあげる。
コンクというのは、店長である力河が個人的に雇っている用心棒だ。今は礼儀正しく大人しい男だが、昔はかなり名を馳せた荒くれ者だったという。
このスキンヘッドも、コンクの名を聞き及んでいるらしく、ぼそぼそと小さな声で謝る。銃口にも脅えていて、殺さないでくれと目が必死に訴えていた。

「…失せろ、今すぐ」

サソリは温度を感じさせない声で命じ、銃口をどける。
すると、バネ仕掛けの人形のようにスキンヘッドは飛び起き、失神したままの仲間二人を両手で乱暴に引き摺りながら、路地から消えていった。


「ははっ、こんなオモチャでも効くんだな」
「は?まさかサソリ、それ…」
「おれが本物持ってると思うか、ネズミ」
「…なるほど」
「これ、おまえにやるよ。そこの坊っちゃんにでもプレゼントしたら」

空に向けて引き金を引くと、銃口からは弾丸のかわりに、本物の薔薇が溢れ出た。




サソリが…サソリが。
美味しいところを全て持っていってしまいました。
ごめんネズミ。わたし今、サソリブームなんだ(笑)
それから紫苑が空気な件。ひたすらごめんなさい…。

ネズミが珍しくピンチになって、そこを助けたサソリが心配のあまりネズミの無防備さを叱りつけて、そしたら紫苑がネズミに謝って、それをネズミが甘やかすから、サソリは紫苑にどうしようもなく嫉妬する、つまりはサソ→→ネズ→→←紫苑…ていう筋書きのはずが。はずが。あれれ…だっめだな。妄想がそのまま形になればいいのに…


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