天上天下唯我独尊


!)ホストパロ、ネズ紫
「地上に舞い降りた悪魔」シリーズの続き



ライバル店へ視察へ行った、あの日を境に、イヴことネズミはさっさと仕事を上がるようになった。今までは終業時間ギリギリまで愛想良く客の相手をしていたあのネズミが、だ。
今夜もつつがなく予約客の相手を終わらせたネズミは、当日の指名を受けることなく退出する。
その姿を横目で捉えたサソリは、不機嫌そうに眉をしかめた。

なんとも、張り合い甲斐のない。

サソリは、ネズミに毎回水を空けられながらも不動のナンバーツーを誇っていた。
少々おもしろくないサソリは、ロッカールームでネズミとすれ違いざまに囁きかける。

「おまえ、とうとうおれに席を譲るつもりにでもなったのか」

ネズミは視線をすいっと斜めに流してサソリの瞳を捕えると、唇を不敵に歪めた。

「何言っちゃってんの。このおれに、」

敵うなんて思ってるわけ?





挑発を軽くあしらったネズミは、するりとサソリの脇を通り抜けて悠然と店を出ていく。
ホールの華が居なくなり、心なしかクラブの雰囲気が色褪せたように感じられた。

あの、馬鹿野郎。

サソリはネズミの消えて行った先を睨み、それと悟られぬよう小さく舌打ちをする。

「ねぇ、どうしたの?サソリさん、」

腕に絡み付いてくる年増の女をにこやかに振り払い、サソリも夜の街へ飛び出す。

「おい、ネズミ、」

思わず呼びかけが口をついて出るが、ネオンのちらつく華やかな通りを見回してもネズミの姿はない。
見失ったか、と苛立ちを抑えきれずに舌打ちし、もう一度ネズミを呼びかけてみる。

「ネズミ、」

くすっ。

返事のかわりに、背後で密やかな笑い声がした。

「誰かをお探し?ホストさん」

とろけるように甘い声。

振り返ったそこには、絶世の美女がすらりと立っていた。
その姿に見惚れ、呆けたように声もなく立ち尽くすサソリに、女はまたくすりと笑う。

「わたしが誰か、分からない?」

楽しそうに目を細めてそう言った女がことりと首をかしげると、艶やかな黒髪が白いうなじをさらりと撫でて肩からこぼれた。

「あ…いや…、ネズ、ミ?」
「ふふ、さすが、ご名答」
「ご名答って…おまえ、女装なんかして、何やって…」
「これから、愛しの坊やに会いに行くの。で、何か用?」
「は?」

ネズミから漂い流れる色香に酔い、あまり頭が働かない。反応の鈍いサソリに痺れを切らしたのか、ネズミは普段の口調に戻って詰問する。

「あんた、おれを追いかけて来たんじゃなかったの。店の客放り出して」
「あ…ああ」
「急いでんだけど、おれ。何も用ないんなら、失礼させてもらうぜ」
「あっ、待てよ」

伸ばした手は空を掻き、サソリは茫然とその場に立ちすくむ。

ほのかに甘い芳香だけを残し、ネズミの姿は消えていた。


Holy am I alone throughout heaven and earth.


next...?


あーっと、私は何を書きたかったんでしょう…。
足繁く紫苑の元へ通うネズミと、そんなネズミにひどく嫉妬するサソリが書きたかった…ような…。

タイトルと最後の英文は、macleさまよりお借りしました。

「天上天下唯我独尊」の意味は以下(受験生支援のホムペより引用)
お釈迦様が生まれた時、7歩歩いて天地を指さし「天上天下唯我独尊(どれ一つとして尊くない命はなく、だからこそ尊い)」と唱えたことから転じて、他を顧みず自分ほど偉い者はないと一人よがりでいる態度を言う。

英文の方はざっくり意訳で「なんて私は孤独なんでしょう」みたいな感じだと思います、多分。天涯孤独…的な。


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