02
「ネズミ…なんで女の子になったのか、聞いてもいい?」 「おれが知るかよ」 「じゃあ、いつから女の子になってたの?」 「…朝、起きたら」 「えっ、ぼく気づかなかった」 「あんたは鈍感だからな」
ははっ、といつも通りに笑うネズミを、紫苑は見つめる。
顔が少し小さくなった気がする。きれいな眉、細くなった顎、顔のわりに大きな灰色の瞳が際立っている。 首筋や肩も華奢になり、白いうなじにかかる長めの黒髪が少女らしい。
紫苑はだんだん視線を下げていき、それはネズミの胸のところで一時停止する。 超繊維布を羽織っているせいであまりわからないが、その輪郭線は明らかに女性のものだ。
「紫苑」 「うん?」 「あんた、どこ見てんだよ」 「え?ああ、ええと、胸が──」
最後まで言い終わらないうちに、ネズミの平手が飛ぶ。
「こ…っ、こここの変態っ!見損なった…!」
頬を上気させ、ネズミは憤怒の表情で仁王立ちに立つ。 一方紫苑は、打たれた左頬を押さえながら、ぽかんとしている。
「…ネズミ、どうしたの?」 「は?」 「痛く、ないんだけど。しかも、平手打ち…?」 「え?」 「この前喧嘩した時は思いっきり拳で殴られた記憶があるんだけど。なんか、行動パターンまで女の子になってない?」 「なるほど、分かった。そんなに拳が良かったか。歯くいしばれ」 「ちょ、ネズミ?えっ、そうじゃなくてっ」
今度はネズミの拳が飛んでくる。 咄嗟に紫苑はネズミの手首を掴み、直撃を防ぐ。
「…あれ?ネズミ、力まで弱くなった?わ、手首も細いじゃん」
拳を阻まれたネズミは、くっ、と悔しそうに顔を歪める。 だが今の紫苑には、それさえも可愛らしく見えた。
「ネズミ…っ、かわいい…っ」
そのまま、ぎゅっとネズミを抱きしめる。柔らかい。 ネズミは紫苑の腕のなかでじたばたもがく。
「ばっ、離れろ、馬鹿!」 「ふふっ、ねぇネズミ」 「なんだっ」 「気が付いてた?ぼくの方が背が高い」 「…っ」 「ふふふ。ぼく、このままネズミが女の子になっちゃっても全然かまわな…」 「この鬼畜野郎!」 「ああもう、最後まで聞いてよ。きみは困るよねって言おうとしたのに」 「あああ当たり前だっ」 「やっぱり、解決策は考えなきゃだめだよね…うーん」 「考え込む前に手を離せ!」 「えー。いやだ。もう少しこのまま」
ネズミの渾身のアッパーカットが、今度は紫苑に直撃する。 これにはさすがに紫苑も涙目になったことは、言うまでもない。
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