揺れる灯火


時々、悪夢を見る。
それはいつも、決まって同じ夢。
やっと見つけた小さな灯火が、消えてしまう夢。

分かっている。
おれは、失うことが怖いんだ。





ネズミが、うなされている。
隣で苦しそうに呻き、額に汗を浮かべているネズミを見て、紫苑は起こしてあげるべきか迷った。

ネズミの睡眠時間が短いことは知っている。
せっかく眠れているのに、起こしたら悪いかと思う。
だが、ネズミがあまりに辛そうなのを見かねて、結局起こすことにする。

「ネズミ、ネズミ」

こちらに背を向けて寝ているネズミの肩を、少しゆする。
紫苑はそっと触れたのに、ネズミはびくっと肩を震わせ、ぱっと瞳を見開く。

しばらく荒い息を繰り返した後、ネズミは何かを呟いた。

「どうしたの、ネズミ」

ネズミの肩に手を置き、灰色の瞳を覗き込む。

「…し…おん…」
「うん?」
「…おれに…近づくな」
「ネズミ?」
「あんたは、きっと…変わってしまうだろう」
「は?」
「だから、これ以上…」

ネズミは、要領を得ないことを口走る。
どんな悪夢を見たのだろうか。

ネズミの肩は細かく震えていた。
その震えを鎮めようと、紫苑は背中から優しくネズミを抱きしめる。

「大丈夫だよ、ネズミ」

ネズミのようにたくさんの声音を操ることはできないけれど、できるだけ温かい声で囁く。

「ぼくは変わらず、きみのそばにいる。きみから離れようとしない限り、ぼくはずっときみの隣にいる。きみの傍らにいたい。だから…」

だから、大丈夫。

ネズミがどんな夢を見たかも知らず、何に震えているのかも知らず、怯えているのか恐れているのか嫌悪しているのかも分からない。

何を言えば言いか分からないから、紫苑は自分の想いを囁いた。

ネズミは紫苑の言葉を信じないと言う。
でも、No.6にいた頃とは違う。
今ここで、口にする言葉は全て真摯な言葉。

怖がらないで、ぼくがここにいる。
いつも変わらず、ここにいる。

それが伝わったのか、ネズミの震えは徐々におさまっていった。
そして、ネズミの泣く気配を感じた。

ネズミは強がりだから、絶対に他人には頼らないのだろう。
人前で、泣くこともしない。

こちらに背を向け、嗚咽をこらえるネズミの頭を撫でながら、紫苑はその涙に気づかないふりをした。



39000hit、雪香さまより「精神不安定なネズミとそんなネズミを優しく包み込む紫苑」というキリリクでした。
ありがとうございました!
とりあえず原作沿い書いてみましたが…ネズミがツンデレすぎて私にはうまく書けなくて…ごめんなさい!!
しかもあまり…紫ネズの雰囲気がないですね…あああ心残りがorz
ってことで、もう一本パロで、このテーマで書かせて下さいごめんなさいm(__)m

タイトルは、さまよりお借りしました。
ありがとうございました!



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