03


紫苑は黙ったまま、ネズミの手をひいてずんずん歩く。
煩雑な通りを抜けて、静かな道になっても一言も喋らない。
根負けして、ネズミから口を開いた。

「紫苑、どうした」
「ん?」
「なんで喋らない?もしかして、怒ってるのか」
「え?そんな、違うよ」
「あ、礼をまだ言ってなかったな。紫苑、魔女から助けてくれてありがとう。これで、貸し借りゼロだ」
「うん…」
「紫苑?本当に、どうしたんだ?何かあったか?」
「…ネズミ」

急に紫苑は立ち止まり、くるりと振り返る。
ネズミはぶつかりそうになり、すんでのところでストップする。

「なんだよ紫苑、危ないだろ」
「…同じなんだ」
「は?」

紫苑は俯き、ネズミの肩に額を押し付ける。
絞り出すように、言う。

「同じなんだよ、ネズミ」

気配で、紫苑が泣いているのが分かった。
ふ、とネズミはため息をつき、ぽんぽんとあやすように紫苑の背中を撫でる。

「…紫苑、どうした?たのむからおれにも分かるように言ってくれ。主語述語も忘れずに」
「うん…。ぼくも、あの女の人と同類だってこと…。きみを、ぼくだけのものにしたい、ぼくだけを見ていてほしい…って、醜い独占欲の塊だ。本当にひどいよね、ごめん…」

ネズミは優しく紫苑の背中を撫で続ける。
心地よい声音で、紫苑の心を鎮めるために、紫苑の言葉を促す。

「それで?全部言ってみろよ、かまわないから。全部、吐き出して」
「君の帰りが…、君が香水の匂いをつけて帰ってくるようになって…、でも君は、何も言わなくて。君が、詮索されるのを疎んでいることは知っていた。知っていたけど、やっぱり調べずにはいられなかった」
「今回は、それが功を奏したんだ。そんなに泣くことないじゃないか。おれは怒っていない…むしろ感謝している」
「今回…初めて、自分の内に巣食う醜い感情に気がついたんだ。きみを誰にも取られたくないって。きみは誰のものでもないのに…ましてや、ぼくがそんなこと、思えるはずがないのに。ごめん」

そう言って紫苑は泣いた。
しかしネズミは笑う。愉快そうに、笑う。

くっくっくっ。

はっと気づいて紫苑は顔をあげ、少しふてくされる。

「ネズミ…笑い事じゃないのに」
「ははっ、わりぃ。ただ、おかしくて」
「なにが」
「…紫苑」

ネズミは紫苑の肩に手を置き、紫苑の瞳を下からのぞきこむ。

「その、独占欲っていうやつ、おれへの愛情表現と受け取ってもいい?」
「え?」
「ふふっ、異論は認めない」

ネズミは素早く紫苑にキスし、抱き締める。

「ちょっ、ネズミ、離して」
「やだ。もう少しこのまま」
「なんで」
「紫苑がかわいいから」
「なに言ってるんだよ、ちょっと」

…その様子を、イヌカシが心配して付けていた一匹の犬だけが見ていた。



35000hit、「独占欲の強い紫苑とネズミ」というリクエストでした!
美味しいリクありがとうございました〜。
思ったより女がしぶとくてネズミが弱くて、予定より長くなってしまいました(笑)
なんかネズミがあんまりかっこよくないけど、最後の方はなんとなくネズ紫っぽくなりました。
でもまぁ別に、この二人のことだから実は紫ネズでしたって言われても驚かない(え
つまり、どっちでもいけますよって話です(^^;

イヌカシは西ブロック一番の情報通ですよね、そう信じてます!
となると、イヌカシの記憶力は鍛えると紫苑以上なんじゃないか、って思いますがどうなんでしょう。



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