02


ひんやりした感触で目が醒めた。
ゆっくりと重たい目蓋を持ち上げると、灰色の瞳があった。

「あ、起きたか」
「ネズミ…」
「そのまま寝てろ。いま、夕飯持ってきてやる。動くなよ」

頬に触れていたネズミの指が離れていく。ひんやりとした感触は、ネズミの手だったらしい。
額にも濡らした冷たい布巾が載せてあった。

紫苑がぼんやりしているうちに、ネズミはすばやく水とスープを持って戻ってきた。

「えっと…なんで、ぼくは…」
頭が朦朧としてうまく働かない。地下室に帰ってきた後の記憶がない。

「おれが帰ってきた時、あんた、乾パンと干し肉抱き締めたまま戸口でぶっ倒れてたんだよ、。…ほら、水。飲めるか?」
「うん…」

なら、このベッドにはネズミが運んでくれたのか。
ふと自分の着ているものを見れば、寝間着になっていた。思わず赤面する。

ネズミは紫苑の首筋に両手を当て、顎の方へすべらす。

「すごい熱だ、紫苑。扁桃腺も腫れている。風邪か?」
「そう…みたいだ。ごめん、ネズミ」
「これ、ミルク味のスープだけど、食べられる?」
「えっ、クリームシチュー?」
「そんな大層なもんじゃないけどな」

少し肩をすくめ、ネズミ得意気に笑った。
西ブロックで、新鮮な牛乳の入手は極めて難しい。
ネズミはなんでもない顔をしているが、かなりの金を払ったのだろう。

ネズミが優美な仕草でスープをひとさじ掬い、紫苑の口元に持ってくる。

「…あったかい。おいしい」
「そりゃ良かった。全部食え、ほら」
「ネズミは?」
「おれはもう食った。あんたが寝てる間にな」

嘘だと思った。きっとネズミは、いつもの粗末な乾パンで夕食を済ませたに違いない。
でも紫苑はその思いを口には出さず、差し出されるスープを大人しく飲む。
紫苑が完食すると、ネズミは目元を和ませ、紫苑の白髪を優しく撫でた。

「よくできました。今日はもう、ぐっすりおやすみ、紫苑」
慈愛の聖母の声音で囁くと、その唇は優しい子守唄を奏で出す。

紫苑はゆっくり、眠りに引き込まれていった。


おはよう、紫苑。気分はどうだ?

おはよう。今日はもう熱も下がったみたいだ、ありがとうネズミ…って、あれ?今何時?

もう昼だけど。あ、飯食う?

あ、いや、そうじゃなくて!きみ、仕事は?

ああ、今日は行かない。

え、無断欠席?だめじゃないか、今からでも行って…

いやだ。

まだ全部言ってない。

あんたの言いそうなことは、たいてい予測がつくさ。
なんで、あんたが調子悪い時に家を空けなきゃならない。客なんかどっちでもいい。

ネズミ、でも…

紫苑。頼むから、無理してくれるな。

…ごめん。気をつける。

いい子だ。




34000hit、ハクさまからいただいたキリリクでした。
ネズ紫で、熱があるのに気づかず倒れて、帰宅したネズミが倒れてる紫苑に気付いて慌てて看病する甘い話…というリクエストでしたが、ちゃんと甘い話になっていたでしょうか…(糖分不足すみません…)
きっとネズミは、「なんでそんな薄着なんだよ、上着はどこへやった!」とか「いつもいつもガキにしてやられて、不甲斐ないと思えよ」とか、保護者面でいろいろ紫苑を叱りたいのをぐっとこらえて、優しく紫苑の看病したんです、そんな所が管理人の精一杯の甘々で…(え
紫苑が全快したらネズミは紫苑をお説教してどったんばったんするのでしょう^^
ちなみに紫苑のために無償でネズミが唄った子守唄、ねんねんころりよ…じゃなくて、シューベルトのSchlafe,Schlafe-…の方を意識してます。
でも手元に気に入った和訳歌詞がなかったので割愛させていただきました…。
こんな駄文で申し訳ありませんが、これからも迷路をよろしくお願いいたしますm(__)m



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