04
※流血表現、死ネタを含みます。 苦手な方は全力でお逃げ下さい。
「山勢さん!」 『早く!山勢!』
飛び込むと、すでに沙布とフェネックがいた。 「よーし、任せとけ!」
山勢がステップを踏み、単発式マスケット銃を無数に召喚する。群がってくる使い魔を一気に蹴散らす。
『魔女だ、孵化するよ…!』 フェネックが警戒の声を上げる。 お菓子の箱が震え、ぽんっと魔女が飛び出す。ピンク色の頭巾を被った可愛らしい姿の、生まれたての魔女。
「出てきたばかりのところ悪いが、今回ばかりは速攻で倒すぜ!」
早速大砲を召喚し、ぶっぱなす。 体が軽い… こんなに明るい気持ちで戦ったの、 初めてだ…!
落ちてきた魔女にマスケット銃の弾もぶちこむ。地に叩きつけ、魔女の頭に銃を突き付ける。距離0で躊躇なくトリガーを引く。 黄色のリボンを取り出し縛り上げ、巨大な大砲を召喚する。
「ティロ・フィナーレ!!」
煌めく砲丸が見事命中する。 やった!と沙布も紫苑も叫び、ハイタッチする。
山勢が振り返り、晴れやかに笑った。
だが、その時。
魔女の残骸から何か影がたちのぼる。それはみるみる形をとっていく。そしてそれは山勢に迫る。
「や、山勢さん…前っ!!」 紫苑が叫ぶ。山勢は首を傾げる。 「え?」
それが、山勢の最期の言葉となった。
ガシュッ。
それは、一瞬だった。 きっと山勢は即死で、訳も分からなかったはずだ。
復活し、形態を変えた魔女が山勢の頭にかぶりつく。 山勢の変身が解け、ブレザー姿に戻る。 魔女が鋭い歯で、山勢の首をくいちぎる。落ちた胴体も追いかけ、それをむさぼり喰う。
ひっ、紫苑も沙布も息を呑む。 目を覆いたいのに、覆えない。 今すぐ逃げたいのに、足が動かない。 フェネックの声だけが響く。
『やばい!この結界内に魔法戦士がいなくなった!』
山勢をすべて胃袋へおさめた魔女が、グルルと喉を鳴らしながら二人の方を向く。もごり、と血まみれの口を動かし、舌なめずりする。
『二人とも!今すぐ願い事を決めるんだ!』
魔女が体の向きを変えた。間違いなく、次の標的は紫苑と沙布だ。
『早く!』
フェネックが叫ぶ。
「その必要はない」
凜とした声が響く。 ひらりと、広間にネズミが降り立つ。
武器も持たず、丸腰のまま魔女の目の前に立つ。嬉々として魔女はネズミに牙をむく。 しかし、次の瞬間ネズミは別の場所にいた。
「ほら、おれはここだぜ」
また魔女はかぶりつこうとする。 空振り。
「どこ狙ってんだ、うすのろ」
怒って喉の奥で唸る魔女。 ネズミは唇の端で笑う。
「ここだぜ、ここ」
魔女は真っ赤な口を大きく開け、ネズミに向かう。ネズミはその口に爆弾を何発か放り込む。
バコンッ、バンッ、バンッ。
爆発する。風船の割れるような音をさせて、魔女はしぼむ。しかしまたその残骸から不死鳥のように魔女が復活する。増殖する。
ネズミは魔女との追いかけっこを繰り返した。ひらり、ひらりと、魔女の鼻先を跳びまわる。まるで、瞬間移動をしているようだ。
「…あそこか」
ネズミは呟く。その次の瞬間には別の場所にいた。黒くて小さな何かを踏み潰す。
「これが、本体だな」
まだ追いかけてくる大きな魔女に、もう一発手榴弾を投げ込む。本体を失い爆発した魔女は、もう復活しない。増殖が止まる。 その残骸に、ひとつのグリーフシードが残されていた。 ネズミはそれを拾い上げる。
魔女の消滅と共に、結界も消えた。 病院に面した何の変哲もないただの道に戻る。
そこに、山勢のソウルジェムの残骸が落ちていた。その隣に、山勢が持っていたグリーフシードも。
沙布が泣き崩れる。山勢のソウルジェムをかき集め、座り込む。 「…山勢…さん…!!」
ネズミがヒールの音を響かせながら、近づいてくる。 紫苑の目を見据え、冷たい声で言い放つ。
「覚えとけ。魔法戦士になるって、こういうことだ」
山勢のものだったグリーフシードも、ネズミは拾う。 沙布が、涙でぐしゃぐしゃの顔を上げ、叫ぶ。
「返せ!それは、山勢さんのものよ!」 「…山勢は死んだ。そして、これは魔法戦士だけが持つものだ。あんたに持つ資格はない」
夕焼けの赤い光が差す道を、ネズミは悠然と歩き去った。
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