ちょっとだけ、隙を見せてよ
!)学パロ ・紫苑、ネズミ、沙布は高等部1年 ・沙布は生徒会長 ・『空に告白した夢を見た』と『フラグを回避せよ』と同じ設定 ・でも今回沙布は出番なし…ごめんね
あれ、ネズミがいない。
2限目の授業中、紫苑は教室からネズミの姿が消えていることに気付いた。 1限の授業には珍しく遅刻もせず、ちゃんと出ていたはずなのに。 しかも2限の授業は古典、ネズミの得意な科目だ。 おかしいな、と紫苑は首をひねり、次の休み時間にはネズミを探しに行こうと思った。
ちょっとだけ、隙を見せてよ
「ネズミ、やっぱりここか」
ずいぶん秋は深まり、風は冷たくなっていた。その風の吹きさらしになる屋上でネズミは一人、悠然と立っていた。目を細め、空を見上げている。
「あ、来たんだ、紫苑」 「当たり前だろ、ネズミ、いきなり消えるんだもん」 「ふふっ、心配した?」 「ううん。きみの行きそうなところは予想がついたから」 「あっそ」 「でも…もう寒いね、ここ」
うっかりブレザーを着ないでセーターのまま出てきてしまった紫苑は、ぶるりと身震いした。 ネズミは紫苑の様子に気付き、首に巻いていたマフラーを紫苑にかけてやる。 そのマフラーは特殊な繊維で織られたもので、驚くほど暖かかった。
「ありがと、ネズミ。きみは、寒くないの?」 「全然。あんたみたいに、ひ弱じゃないから」 「ふぅん。強がって風邪なんかひくなよ。…ほんとに暖かいや、これ」 「そりゃよかった」
ネズミの温もりを残したマフラーにくるまり、紫苑は微笑む。 ネズミも紫苑の笑顔を見て、満足げに表情を緩める。 3時限目を告げるチャイムが鳴ったが、二人とも聞こえないふりをした。
「…そうだ、紫苑」 「うん?」
ごそごそとネズミはポケットを探る。 そこから取り出したのは、ポッキーだった。箱の角がつぶれ、少しへしゃげている。
「食う?」 「うん。…でもそれ、折れてるんじゃない?」 「かもな。今朝急いでたから」 「え?」 「なんでもない…っと」
綺麗なネズミの指が、優雅に封を切る。ネズミにかかると、たとえ扱うものがスナック菓子であっても、とても優美な動作になる。 その様子を、紫苑は惚れ惚れと眺めた。
「あ、やっぱりほとんど折れてやがる」
ちっ、とネズミは舌打ちし、苦心して折れてないポッキーを選ぶ。
「じゃあぼくも…」
紫苑もポッキーに手を伸ばす。だが、ネズミはそれをすっと避けて、にやりと笑う。
「…なんだよ」 「今日はなんの日だったっけ。あんたが食うのは、こっちだよ」 「…ポッキーゲームでも、するつもり?」 「ご名答」 「そんなの、ただの商業戦略じゃん」 「それに乗っかって楽しんだっていいだろ?」
ネズミはポッキーをくわえる。そして、促すように小首を傾げた。 その視線に負け、もう片方の端を紫苑もくわえる。
カリッ。カリッ。
紫苑は二口進んだところで固まってしまう。 ネズミの顔が近い。灰色の瞳に吸い込まれてしまいそうだ。 かあっと顔に熱があつまる。慌ててポッキーを放そうとする。 だが、ネズミの視線に絡めとられて動く事ができない。
カリッ、カリカリッ。
動けなくなった紫苑とは違い、ネズミはどんどん食べ進んでくる。
カリッ、カリッ、カリカリッ。
近い。すごく近い。鼻と鼻がぶつかりそうだ。 紫苑は思わず、ぎゅっと目を瞑る。 ネズミもそっと目を閉じた。
チュッ。
紫苑の唇までたどり着いたネズミは、軽いキスをして離れていく。
緊張していた紫苑は、ふう、と息を吐き、少し拗ねて言う。
「…納得いかないよ」 「え?」
まだ赤い顔のまま、紫苑はふてくされている。
「ぼく、ほとんどチョコのとこ食べてない」 「あんたが止まるからだろ」 「最初からきみの方がチョコの部分だったし」 「じゃ、もっかいする?残ってるの、もう短いのばっかりだけど」 「…する」
ふふふ、とネズミは笑う。 紫苑もちょっと躊躇ってから、照れたように笑った。
以上、はポッキーの日の紫苑とネズミでしたー。 ネズ紫なのか紫ネズなのかはとくに意識してません。 どっちにしても可愛いからこの二人大好きなんです。 最後なんだか紫苑が赤面しまくっててネズ紫っぽいけど、それは紫苑が照れ屋さんなだけかも。
あっ、それからネズミはちゃんと計算してます。 これ、3限目のお話なので、ちょうど11時11分あたりの時間帯。 高校だから…1限目が8:30からだとしたら3限目が10:30からだもんね…!
でも、今日が11/11だったってこと、うっかり前日まで忘れてて、朝コンビニで買ってポケットに突っ込んできたネズミさん。…て設定でした(本文中で語りきれなかった…)
ちなみにこの二人は、まだ付き合ってないか、付き合いだして間もない頃をイメージしてます。
素敵なタイトルは、巣さまよりお借りしました。
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