03
「ここ…っ、ですっ」 合流した紫苑と山勢は、全力で走って結界の入口へ来た。 「了…解っ」 山勢も息を切らせながら、少しの躊躇いもなく結界へ踏み込む。
「ああ、ちゃんと跡が残っている」 「え?」 「こっちだ、紫苑!沙布が道しるべを残してくれている!」 「あ、はい!」
走りだそうとした時。 「待て」 温度を持たない声が二人を引き留める。ネズミだ。
「今回の魔女は、おれが仕留める。山勢、あんたの出番はない」 「おまえな…」
ふう、と山勢は息を吐くと、一瞬で変身する。
「毎回毎回、なんで突っかかってくる?おれだっていつも見逃すわけにはいかない。ここは、おれのテリトリーだからな」 「今回の魔女は、今までとは違う」 「なぜ分かる?とにかく、しばらくおとなしくしとけ」
いきなり、山勢は腕を降り上げ、黄色のリボンを出しネズミを縛り上げる。
「なっ…外せ!こんなところで争っている場合じゃ…」 「おとなしくしてたら、帰りに解いてやるよ。おまえと争うつもりはないから、安心しろ」 「違う…!あの魔女は」
フェネックの声が聞こえた。テレパシーだ。
『山勢、着いたかい?魔女はまだ孵化していない。下手に刺激すると逆効果だから、急がず静かに来てくれ』 「了解、っと。じゃ、おれたちは行くから。おい、紫苑、行くぞ」 「え…あ、はい」
少し心配で、ネズミを振り返る。 でも、山勢が人に危害を加えるはずがない。 帰りに解くと言っていたし、大丈夫だろう。
結界内をおそるおそる歩きながら、山勢はおもむろに尋ねる。
「なぁ紫苑、願い事、決まったか?」 「ああ…えぇと」
はは、と紫苑は情けなく笑った。
「考えたんです。でも、答えがありませんでした」 「え?」 「ぼく、何もできない、役にたてない奴なんです。でも、山勢さんみたいに、かっこよく人の為に何かできるようになれるなら…って、それがぼくの願いなんです。だから、魔法戦士になれたら、ぼくの願いは叶っちゃうんです。それが、ぼくの願いなんです」 「…違うよ」
山勢は俯き、違うともう一度繰り返した。
「おれ、そんな尊敬されるような人じゃないよ」 「そんなことないで──」 「怖いんだ」
山勢らしくない暗い声で、紫苑の言葉を遮る。
「いつもいつも、魔女と相対するたび、怖くて仕方がない。臆病なんだ。でも、逃げられなくて、誰かに相談もできなくて。でも」
一旦、言葉を切る。振り向いて、紫苑と向き合う。
「でも、仲間が出来るなら…、紫苑が魔法戦士になってくれるなら、おれは…」
山勢の心中を察し、紫苑はにっこり笑う。
「大丈夫です。一緒に戦いましょう!」 「ありが…とう…!君がいてくれるなら、もう何も、恐くない…!」
その時、再びフェネックのテレパシーが届いた。
『やばい!山勢!魔女が孵化を始めた!急いで!』 「オーケイッ!」
山勢は紫苑の手を取って走り出す。 「でもさっ、もったいないから何かフェネックにお願いしなよ」 「え、でも…」 「なんでもいいじゃないか、金銀財宝でも、素敵な彼女でも、食べ物でも!」 「えー、思いつきません…」 「じゃあ、こうしよう!この戦いが終わったら、フェネックにケーキを頼もうぜ!特大のケーキで、紫苑とおれの魔法戦士ユニット結成記念パーティー!」 「ケーキ?ぼく、ケーキで魔法戦士に?」 「そう!それが嫌ならちゃんと願い事考えとけよ!」
山勢は、魔女のいる広間の扉を勢い良く開け放った。
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