01
山勢の後に続き紫苑と沙布は、日が落ち薄暗くなりはじめた道を歩く。また、魔女探しだ。 フェネックは紫苑の肩に乗っている。
「あの、山勢さん」 莉莉の事があってから、ずっと沈んでいた沙布が口を開いた。 「私、願い事…決まりました」 「どんな?」 「友達の、命を救いたくて」
ぴたりと、山勢の足が止まる。 「それは、よく考えたんだね?」 「はい」 「他人のために願い事をするのは、賛成しかねるな。たとえそれが人助けだとしても。絶対、後悔しないかい。言い切れる自信があるかい」 「もちろんです」 『じゃあ、今すぐ契約して、魔法少女になる?』
フェネックが紫苑の肩の上から、沙布を見下ろすようにして言う。 「待って」 山勢が遮る。 「やっぱり、沙布、もう一度、考えた方がいい。一度始めたらやめられない仕事だからね、これは」 『それで、紫苑は?願い事は見つかったかい?』 「ぼく…は…」
紫苑はずっと考えていた事を思い返す。 こんな自分が、人の役に立てるなら。 そんな人間になれるなら、それだけで、ぼくは…。
それを言葉に出そうと、紫苑が口を開いたその時。 「だめだ」 鋭い、声がした。山勢のものでも、沙布のものでも、ましてやフェネックのものでも、ない。
「あんたは、魔法戦士になっちゃいけない」 気配さえ、感じなかった。いつのまにか目の前にネズミが立ちはだかっていた。 闇に紛れるような、黒と灰色の戦闘服をまとい、ヒールの音を響かせながら一歩一歩近づいてくる。 その目は、紫苑だけを見据えていた。
「また、きみか」 山勢がふっと息を吐く。
「そんなに、紫苑を魔法戦士にしたくないのか」 「ああ、そうだけど」 ちらっ、と山勢を見遣り、また視線を紫苑に戻す。 紫苑はたじろぎ、一歩後ずさる。
「甘い言葉に、騙されるな。そいつを、信じるな」 すっ、と優美な動きで腕を持ち上げ、フェネックを指差す。
『私かい?』 「おれは、こいつの正体も、目論みも、全て知っている」
フェネックの正体?目論み?
「いい加減にしろよ」 山勢が苛立ちを隠さずに言った。
「紫苑は、最強の魔法戦士になるだろう。自分より強い魔法戦士が生まれるのが、そんなに嫌なのか?いじめられっ子の発想だな」
ネズミは、山勢を冷たい目で見る。
「あんただって、フェネックと同罪だ。あんた、自分が何してるか、分かってんの」 「は?」 「あんたは、こいつら二人を、魔法戦士へ誘導している」 「それの、何が悪いんだ」 「これ以上、犠牲者を増やすな。あんたは、なにも知らない。分かってないんだ」
言うだけ言うと、ネズミは三人に背を向けた。
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