祈りを忘れたクラーヂマンの懺悔
「なかなかに強情な小娘よ。口を割らぬとなれば、無理やり吐かせるまでだが…さて、どうする?」
不穏な言葉と共に凄絶な笑みを向けられ、紫苑はただ言葉もなく凍りつく。 サソリが単に名を尋ねているのではないことは分かったが、だからといって、ただの学生である紫苑に名乗るべき身分などない。だがそれを正直に言ったとして、到底すんなり信じてもらえるような雰囲気ではなかった。
「ほう?」
紫苑が黙ったままでいると、サソリは何を思ったのか、紫苑の髪に手を伸ばしてきた。
「睫毛が白いな。まさかこの髪、てっきり染めているものと思ってたが、地毛なのか?」 「あ…」
ちがう、たしかに地毛は白髪だけど、それは鬘だ… だめだ、実は男だと…ばれてしまう…
とうとう観念して紫苑がぎゅっと目をつぶった時、あたりに涼やかな美しい声が響いた。
「その手を離せ、サソリ」
祈りを忘れたクラーヂマンの懺悔
サソリから無事に解放され、ほっと息を吐きだした紫苑に、ネズミは深く頭を下げた。
「不愉快な思いをさせてしまってすまなかった、紫苑」 「いや、またきみに助けてもらった。ネズミ、ありがとう。でも、あのサソリって人、どうして目を吊り上げてぼくに…」 「…ほんとうにすまない、身内のごたごたにあんたを巻き込むつもりはなかったんだ。あいつのことは忘れてくれ」 「ネズミ、ぼくは…」 「そろそろパーティもお開きだ。そこで着替えて来いよ、待ってるから。それから家まで送っていく」 「ネズ、」
珍しくネズミは突き放すように、紫苑に冷たく言い放った。 それ以上問い詰めることはできず、紫苑は仕方なくドレスルームへと向かった。
← | →
←novel
←top |
|