光の乱反射


「ごきげんよう、木陰にひっそりと咲く露草のような、控えめなお嬢さん?」

誰とも目が合わないように俯き、ひたすら取り皿に盛った料理を口へ運ぶ紫苑は、よもやその言葉が自分にかけられたものだとは思わず、料理を咀嚼し続ける。

「…さすが、ネズミの選んだ女性とあって、つれないねぇ」

ネズミ、という単語に反応して振り向くと、呆れたように笑う長身の男がいた。





「ああ、やっと気付いてくれたね。そうそう、貴女に話しかけているのですよ、お嬢さん」

背が、高い。
それがその男の第一印象だった。

「お名前を伺っても?皆、ネズミの隣のすらりとした奥ゆかしい美人は一体誰なのかと、大変興味を持っていましてね。…ああ、失礼、こちらが先に名乗るべきですね。私はサソリと申します。ネズミの親戚です、どうぞよろしく」

そう言って、サソリは礼儀正しく、ネズミのように優雅な動作で右手を差し出した。

だが紫苑は顔をこわばらせ、僅かに後ずさる。

サソリの取って付けたような微笑み、精悍な外見とどうもそぐわない丁寧な言葉遣い、柔らかな物腰を裏切り射るように鋭い眼差し。それらすべてが、恐ろしい。

紫苑はぎこちない愛想笑いを浮かべ、ネズミに言い含められたように頭を少し下げてその場を去ろうとした。

「おや、これはまた、ずいぶんと冷たいお人だ」

ふふっ、とサソリは楽しげに笑う。ぞくりと背筋が凍る。

「そう怯えなさんな、なにも取って食おうってわけじゃありません」

右手を取られる。声を上げる間もなく引っ張られ、会場の外へと連れ出されてしまう。
サソリの手を振りほどこうとするがかなわず、手を引かれるまま、はっと気づけばスタッフオンリーという表示のある、厨房の一部であろう場所へ足を踏み入れていた。

「ちょ…っ、あの、離してくださ…」

我慢も限界、紫苑はたまらず声をあげる。ずっと黙っていたせいでその声は上擦り、幸いにも女性の声のように響いた。

「貴女が、素直じゃないのが悪いのだ。何故名乗らない?はたまた、名乗れないような身の上なのか」

ぴたりと立ち止まったサソリは態度を一転、ぞんざいな口調でそう詰問し、壁紙も貼られていないコンクリート剥き出しの冷たい壁に紫苑の手を押し付ける。

「い…っ」
「さあ、名乗れ。何の目的でネズミに近づく?我らの資本目当てか、はたまた同業社のスパイか」
「え?…なに、を…」

サソリは敵意を隠そうともせず、正面から紫苑を睨めつける。
その瞳の色は、生命を宿さぬ砂の色。声色も、さながら砂漠に吹き荒ぶ乾いた風の音のように掠れ、凄みがある。

「さあ、答えろ。怪しい女め」

この人は、危ない。逃げなければ。

紫苑は必死に退路を探し、視線をさ迷わせる。
しかし、逃げることなど許さないとばかりに、サソリ掴まれた手首をぎりりと握り締められ、紫苑はひくっと息を呑んだ。



まだ続きます…(あれ?もっとさっくり終わるはずが…orz)
これまた余談ですがサソリが「露草のようなお嬢さん」と呼び掛けたのは、紫苑のドレスが浅縹色だったから…という理由が(一応)ありますw(個人的に、ちょっと粋な人ってイメージがあるんです、彼には)
縹色=露草色ってことをwikiを辿っていたら偶然知って、それ使いたくなったんです〜
なので、以下wiki引用。

縹色(花田色、はなだいろ)とは、明度が高い薄青色のこと。後漢時代の辞典によると「縹」は「漂」(薄青色)と同義であるとある。花色、月草色、千草色、露草色などの別名があり、これら全てがツユクサを表している(ただし千草色(千種色)という別の色も存在する)。



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