燕尾服の下に広がる闇を拭う為に


「…まあ、こんなものかな」
「ちょ、ネズミ、ほんと…あの、変なんじゃ…」

紫苑は今、きらびやかなドレスを着せられて、パーティーに連れ出されようとしている。
カジノで助けられた借りを返すためだと思えば、パーティーへの同行くらいなんともないが、女装で出席となるといささか事情は違ってくる。

「そんなことないぜ?声さえ出さなきゃ、誰もあんたが男とは…」
「喋るな、ってことか?でも、話しかけられたら…」
「ふふん。あんたも青いな。言い寄ってくる男なんて、にっこり微笑んで袖にしたらいいだけだ。話す必要はない」
「じゃあ、女の人は?」
「ああ、女はあんたに声かけないだろ」
「え?」
「ああもう、時間がない。では参りましょうか、お嬢さま?」
「ちょ、あの、ネズミ…」
「エスコートして差し上げますから、」

まだ文句の言い足りない唇を引き結び、紫苑は渋々とネズミの腕を取り、慣れないドレスの裾をさばいておそるおそる足を踏み出した。





長身を黒の燕尾服に包み、首元には白いアスコットタイ、それをさりげなく留めるピンは目立たないながらも上品に輝くルビー、少し長めの黒髪はベルベットのリボンでひとつに纏められ、首には色っぽい後れ毛が垂れている。

そんな粋な姿で、すらりと長い手足を優雅に動かして会場を歩くネズミは、もちろんパーティーの注目の的で、隣に寄り添う紫苑は肩身の狭いことこの上なかった。
なんせ、美しく着飾った娘たちが皆、紫苑に嫉妬と羨望の眼差しを向けてくるのだ。
なるほど、この様子なら彼女たちが話しかけてくることなど万にひとつもないだろうな、と紫苑の心配事は減って喜ばしいのだが、それでも居心地の悪いことに変わりはない。

紫苑の格好はといえば、地毛とあまり色の違わないプラチナブロンドのかつらで首元の蛇行痕を隠し、胸元もあまり開いていないドレスだった。これはネズミがわざわざオーダーメイドで誂えてくれたもので、紫苑の腕にもある痕を隠すために袖は七分丈、手首もカバーするためにバロック時代のドレスのような長いフリルがあしらわれていた。それに加えてレースの白手袋をはめているから、痕が見えることはない。
ドレスの色は浅縹色、くすんだ水色のような地味な色で、あまり目立ちたくないという紫苑の要望に沿ってチョイスされた色だったが、派手々々しい色のドレスの多いなかで唯一の清楚な色合いは、かえって人目を惹いた。
胸元は、胸の膨らみを演出するために生地を折り返し、さらに手袋とおそろいの柄のレースで飾られていた。裾はロング丈で、ウエストより少し高めの位置で斜めに切り返され、実際より紫苑のウエストを細く、そしてスタイルを良く見せていた。

「紫苑、挨拶して来るところがあるから、ちょっとここで待っててくれる?適当にテーブルの料理食べてるだけでいいから」

ネズミが紫苑の耳元で低く早口で囁いた。
紫苑は驚いて顔を上げる。3cmほどヒールのあるパンプスを履かされているせいで、いつもより近くにネズミの顔があり、若干たじろぐ。

「え…」
「いいか、話しかけられても答えることないからな。すぐに戻ってくる」

このパーティーが何の催しなのか、紫苑がきちんと理解できる前に料理が運び込まれ、立食パーティーが始まっていた。



浅縹(あさはなだ/あさきはなだ)色とはこんな色→#67A7CC■■■(wikiより)

ついついドレスの描写に熱くなってしまって…文字数に限界が。
余談ですが、拙宅の小説は1ページにつき1000〜2000文字程度と決めているので…。
つまり2000〜4000byte。
理由は簡単、あとで誤字脱字の訂正する時に2000文字以上だとスクロールがめんど…っ(ごふっ
すみません、すぐ続き書きますね!!



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