05
「紫苑、昨日今日と帰りが遅いのね」 家へ帰ると、火藍が翌日のパンの仕込みをしながら厨房から声をかけてきた。 「あ、ごめん母さん。昨日は先輩の家へお呼ばれしちゃって」 「2階のダイニングのテーブルに夕食があるわ。今日はまだ食べてないんでしょ?」 「うん。ありがとう」
昨日は、山勢のところで結局、夕飯もご馳走になってしまった。 それから帰ってくると、テーブルの上にはラップのかけられた夕食が置いてあった。紫苑の分だけだ。
「夕食の前には一報入れなさいね。心配なんだから」 「うん。母さん、本当にごめん」 呟いて紫苑は、パン屋になっている1階から、2階のダイニングへ上がった。 また、夕食が取り残されていた。火藍はもうひとりで先に食べてしまったのだろう。
悪いことをしたなぁと反省しながら、冷たくなった夕食をゆっくり口に運ぶ。 冷めていても、おいしい。 温かかったらきっと、もっとおいしかったのだろう。
そんな事を考えながら、思考はいつのまにか魔法戦士の事へ移っていっていた。
山勢は、いつもいつも、危険に身をさらしながら魔女と戦っている。戦いながら、この街の人々を守っている。
今日の出来事を思い返す。 魔女を殲滅して廃ビルから出ると、魔女の口づけを受けたOLが意識を取り戻しかけていた。 山勢はそれに気づくとすぐ彼女に駆け寄った。 いつ取ってきたのか、手には彼女のハイヒールを持っていた。 ──あれ、わたし…? 彼女は怯えたように頭を抱えた。 ──なんで、なんでわたし、あんなこと…! 女性はすすり泣きを始めた。細かく震える彼女の背を、山勢はなだめるように優しくさすった。 ──大丈夫、もう大丈夫です。あなたはただ、悪い夢を見ていただけなんですよ…
ひとのために戦う山勢さんの姿は、とてもかっこよくて。 どんくさくて、勉強以外の実用的なことは何にもできなくて、いつも母さんに頼りっきりで、他人に迷惑ばっかりかけてるぼくだけど。 こんなぼくでも、あんなふうに誰かのために役に立てるなら。
それはとっても嬉しいなって。
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