04
いきなり、いばらの蔓が飛び出す。マスケット銃を乱射してそれを退け、扉の向こうの広間に入り込む。 その広間はまるで薔薇園。果たしてそこに、魔女はいた。得体の知れないグロテスクな胴体に、毒々しい色の蝶の羽がゆらゆら揺れている。
「うっ…」 紫苑のとなりで沙布は口元を押さえ、しゃがみこんだ。 「沙布、大丈夫?」 「グロいね…きもちわるい」
「あれは、薔薇園の魔女」 フェネックが口を開く。
「性質は不信。なによりも薔薇が大事な魔女だ。その力の全ては美しい薔薇のために…。結界に迷い込んだ人間の生命力を奪い、薔薇に分け与えている。でも、人間に結界内を踏み荒らされることは大嫌いなタイプだね」
山勢は、大量のマスケット銃を召喚していた。 部屋の隅を狙い定めて撃つ。一発。もう一発。
そこに何があるのだろう? 紫苑は首をかしげる。 魔女は部屋のまん中にいるのに。
そうこうしているうちに、たくさんの小さな使い魔が山勢の脚を這い上がる。
「あっ…」 沙布が息を呑む。
「山勢さん…!」
山勢の体を這い上がった使い魔は、いばらの蔓に変化した。蔓が山勢の体に絡み付く。それは山勢を持ち上げ、振り回す。
「う、わーっ」 山勢が叫び声をあげるのが聞こえる。紫苑も沙布も青ざめ、黄金の壁にはりつくようにして様子を見守る。
振り回されながら山勢はまた一発、銃を撃ち込む。 「あと、一発…っ!」
ぶんっ、と蔓がしなり、山勢は逆さまに吊るされた状態になる。 紫苑と沙布の方を見遣り、ふっと笑う。 「大丈夫。未来の後輩たちに、あんまりかっこ悪いとこ、見せらんないもんな!」
パンッ。山勢が最後の一発を放つ。 「よしっ、これで完成!」
山勢が逆さまのまま、パチンと指を鳴らすと、床に撃ち込まれた弾丸から黄色のリボンが飛び出す。それがみるみる伸び、魔女をがんじがらめに縛り付ける。魔女はギィギィと耳障りな奇声をあげ、山勢にからみついた蔓はするするとほどける。 自由になった山勢は、巨大な大砲を召喚する。
「ティロ・フィナーレ!」
華やかな色合いの砲丸が飛び出し、魔女に命中する。
「やった!!」 固唾をのんで見守っていた二人が同時に歓声をあげる。山勢はその様子を見て、にっこりと得意気に笑った。
ティロ・フィナーレの命中した魔女はひときわ高い悲鳴をあげ、ついに霧散した。 魔女の結界も、魔女の消滅とともにかき消える。
あとに残ったのは。
「ほら、紫苑、沙布、これがグリーフシードだよ。見て」
興味津々で二人はその灰色の小さな魔女の卵を見つめる。 山勢は変化を解き、ソウルジェムを取り出す。 「これも見て。昨日今日と続けてたくさん魔力を使ったから、黒く濁ってきてるだろう?でも、こうすると…」
山勢はグリーフシードをソウルジェムに近づける。
「あ…すごい」 思わず紫苑は感嘆する。 ソウルジェムの黒い濁りが、グリーフシードに引き寄せられるようにして移ったのだ。 ソウルジェムはまた、もとの黄金の輝きに戻っていた。
「な?便利だろう。それから」
山勢は振り返る。廃ビルの影に向かって言う。
「いるのは分かってるよ。出てきたら?」
コツ。 ヒールの音がして、ネズミが姿を現した。 え、と紫苑は目を見開き、沙布は眉をひそめる。
「君にあげるよ。まだ一回くらいは使えるはずだから」
山勢はグリーフシードをネズミに放り投げる。 パシッとネズミは片手で受け止める。無言。暗くて表情はまったく分からない。 また山勢が声をなげかける。
「お互い、不要な争いとは無縁でいたいと思うだろ?」
だからこれは、和平のあかし。 文句ないだろ?
しかしネズミはグリーフシードを投げ返してきた。
「それは、あんたの物だ。あんただけのものにすればいい」 それだけ言うと、ネズミは踵を返してゆっくりとした足取りで立ち去った。
はぁ、と山勢がため息を吐く。 「だめみたいだな」
「どうして?」 いきなり紫苑が言った。
「同じ魔法戦士なんでしょ?協力しあって魔女を倒せばいいのに…」
フェネックがふわりと尻尾を降ってそれに答える。 「そんな事は少ないね。むしろ、争いになることの方が多いさ」
刺々しい声で沙布が言う。 「紫苑、あの転校生のことよ、ちょっと考えれば分かるじゃない。例え一緒に魔女を倒しても、グリーフシードという利益の取り合いになるんでしょう」
「その通り」 山勢が悲しげにいう。
「本当は、紫苑の言うように協力しあえたら、せめて温厚な関係を築けたらいいんだけど、な…」
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