空気が読めません
約束の日曜日。 紫苑は取られた生徒証を返してもらうべく、ネズミに指定された場所へと向かっていた。
空気が読めません
待ち合わせの5分前、紫苑が着いた時にはすでにネズミはそこにいた。
濃灰色のタートルネックのセーターに黒いジャンバーを羽織り、細いジーパンを黒いショートブーツにたくしこんでいる。 シンプルなファッションが、彼のスタイルの良さや手足の長さを際立たせていた。 この前初めて会った時は服装など見る余裕がなかったが、ネズミはさりげなくお洒落な格好をしていた。 紫苑はふと自分の格好を思い出し、恥ずかしく思った。 今日が予想外に寒かったため、あわてて高校時代のダッフルコートを引っ張り出して着てきてしまったのだ。
「あ、ちゃんと来たね。紫苑」
長い足を組み、柱にもたれて立っていたネズミは、紫苑の姿を見つけると鮮やかに微笑み、手に持って何やら打ち込んでいた携帯をパチンと閉じて近付いてきた。
「…ネズミ。生徒証は?」
紫苑が急いで尋ねると、ネズミは大きくため息を吐いた。 美しい指がジャンバーのポケットから一瞬で、手品のように生徒証を取り出す。
「これのこと?」
そう、と紫苑が頷き生徒に手を伸ばすと、ネズミはひらりとその手をかわした。
「ちょっと、ネズミ?返してよ」 「ふふふ、まだだめ」 「えっ?」
ネズミはにやりと笑ってまた元のように生徒証を上着へ戻した。ポケットの中に生徒証が消える。
さらにネズミは、ぽかんとする紫苑の手を取り、その手の甲にキスをする。
「今日は一日、おれとデートって言っただろ?」
あまりのことに真っ赤になって固まってしまった紫苑の手を引き、ネズミは軽い足取りで街へと歩き出した。
お楽しみいただけたでしょうか、陛下?
とっても。驚くことばっかりだった。…でもネズミ、その陛下ってやめてくれないか
なんで?じゃ、殿下はどう?
どっちもいやだってば。
ふぅん。名前で読んでほしいの?紫苑
えっ、いや、そんなんじゃ…
ふふっ、照れちゃってかわいい、紫苑。
ネズミっ、からかうなよ!…て、あっ、ぼくの生徒証!
ほらよ。あんた、頭いいんだな
え?なんで?
生徒証に、特待生って書いてあるじゃん
あ…うん
…そうそう、紫苑。お願いなんだけど。この前の貸し、返してくれるって言ってたよな
ぼくに出来ることなら
パーティーに、来てほしいんだ。女装して
分かった…って、え、じょそ…う?ええっ
← | →
←novel
←top |
|