02


翌日、校内のカフェテリアにて。

「あ、悪い悪い二人とも、待たせたかな?」
「あっ、山勢さん!」
「大丈夫です、紫苑も私もさっき授業終わって来たばかりですから」
「そっか、じゃあさっそく、腹ごしらえしたら魔女狩り行くか!」

山勢はバーガーと飲み物の載ったトレーをテーブルに置き、二人の向かいの席に座る。

「ところでさ」
バーガーにかぶり付きながら山勢が言う。

「何か準備とかしてきた?」

「はい!これ…」
ごそごそと沙布はバッグを探る。取り出されたのは…

「ほら!」
「え…バット…?」

目を丸くする紫苑。山勢は一瞬驚いたあと、豪快に笑い出す。

「…そ、そんなに変だったかしら…。自分の身が守れるようにって…」
「いやいや、いいと思うよ、これは闘いだからね」

笑いを懸命におさえながら山勢が取りなす。
「で、紫苑の方は?」
「あ、ぼくは…これです」

ぽん、と机の上に置かれたのは一冊のノート。

「開けてみてください」
紫苑の言葉に従い、怪訝そうな顔で山勢がページをめくる。

「機能性を重視した戦闘服のデザインを考えてました。あと、戦闘のシミュレーション、計算などを…」

あははははは、と今度は沙布が笑う。
「紫苑、あなた、勉強じゃないんだから、あははは…」
紫苑は少し赤面してうつむく。
「まぁ、心意気は充分だね」
バーガーの最後の一口を咀嚼し、山勢は苦笑しながら言った。
ジュースの方も飲み干し、勢い良く立ち上がる。
「よしっ、さて、行くか」

山勢を先頭にして三人で道を連れだって歩く。
山勢は懐からなにか宝石のようなものを取り出し、手のひらに載せた。内側から黄金色に光っている。

それを不思議そうに覗き込んで沙布が質問する。
「何ですか、それ?」

「これは、ソウルジェムといって、魔法戦士の力の源だ。これを、魔女を探すために使う。ほら、これ見て」

山勢が宝石…ソウルジェムを指差す。

「少し、黒く濁ってるよね。これが、昨日の使い魔の遺した痕跡。この痕跡をたよりに魔女を地道に探すんだよ」
「使い魔?」
聞いたことのない単語に、紫苑は首をかしげる。

「あ、まだ説明してなかったかな。使い魔っていうのは、魔女のまわりにいるやつ。使い魔も魔力を持っていて、人を喰う。それで力をつけたら使い魔も成長して魔女になるんだ。だから使い魔も放ってはおけない」
「昨日のは、使い魔だったんですね…」
「あと、もうひとつの違いは、グリーフシードを持っているかいないかだ。グリーフシードっていうのは魔女の卵。使い魔はそれを持っていないが、運が良ければ魔女が持ち歩いてることがあるのさ」
「魔女に卵なんてあるんだ…」
びっくりして紫苑が呟くと、そうだよ、と足元から声がした。

「フェネック…!いつのまに」
「ついさっきだ。わたしはいつも、魔法戦士たちと行動するからね」

ぴょこん、と軽く跳ねてフェネックは紫苑の肩にとび乗る。

「魔女の卵であるグリーフシードは、魔女戦士にとっての利益だ」
「え?」
理解してない顔の紫苑と沙布を見て、山勢は笑って言った。

「まぁそう先回りして説明することないよフェネック。魔女を倒してグリーフシードを入手できれば、見せてあげればいいんだ」
それもそうだね、とフェネックがうなづいた時、山勢の手のひらに載ったソウルジェムがひときわ強く輝いた。

「ソウルジェムが反応してる…!魔女の居場所が近いんだ!」

ソウルジェムをいろんな方向にかざし、反応の濃淡を確かめ確かめながら山勢は走り出す。走りながら二人に早口で補足説明をすることも忘れてはいない。

「魔女は、負の気が集まるところにいる。自殺しやすい所、廃屋…、病院になんて取り憑かれたら目もあてられない。ただでさえ弱っている人達が生命力を吸いとられて悲惨な事になる。この近くに病院はあったか!?」

「あっ、山勢さん、あそこ、あのビル…!」
沙布が指し示した方角に、人の影があった。三人でそちらを見上げる。
廃ビルの屋上。ひとつの人影。その影がゆらりと揺れた。墜ちてくる…!


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