01
一目惚れ、なんてものが本当にあるなんて。 実際にそれが自分自身に降りかかって来て初めて、ぼくはその言葉を信じた。
飾り物のお人形さん
イヴ、という名の彼女はテレビの中で、天使のような衣装を身に纏い、これまた天使のような歌声を響かせ歌っていた。 ぼくは目を見開き、液晶画面を可憐に舞う彼女を食い入るように見つめた。その時ぼくは12歳で、何年か前に既に華々しいデビューを終えていた彼女もまた、12歳だった。
それからぼくはイヴのファンになり、イヴがテレビに登場する時は欠かさず予約録画し、リリースされたCDも全て買い集めた。ファンクラブにも入会して、公式ブログには毎日アクセスし、彼女がツイッターを始めるとすかさずフォローした。
それでもぼくは、彼女のライヴには行ったことがなかった。ぼくは臆病で、メディアを通してしか彼女に近づくことが出来なかった。ぼくとイヴの間にはいつも、崩すことのできない大きな壁が聳えていた。 だが、とりたてて不満はなかった。録画を再生すれば、いつでも彼女を見ることが出来たから。
唯一の不服を敢えていうなれば、彼女の喋る声を聞けないことだった。 イヴは13歳を過ぎた頃から、ぴたりと人前で喋ることをやめてしまった。歌声以外の声を全て失ってしまったかのように。あるいは彼女は、声の全てのエネルギーを歌うことに懸けるようになったのかもしれない。 イヴは歌手活動以外の仕事を片っ端から蹴っていった。
毎週出演していた料理番組も降りてしまったし、映画やドラマの出演も断るようになった。せっかく主演の張れる歳になってきたというのに。彼女の演技力は目をみはるものがあったから、それはとても残念なことだった。 取材でマイクを向けられても、ただ彼女はにこにこしているだけで、質問には代わりにマネージャーが答えるようになった。
当然、彼女の不可解な行動にマスコミが騒いだが、相変わらずイヴは国民的なスター歌手であり続け、ぼくも変わらずちっぽけなファンであり続けていた。
そうして、ぼくはイヴの歌声に癒されながら猛勉強をし、厳しい受験を経て有名校に通う高校生になり、気がつくと16歳の誕生日を迎えていた。
タイトルは、巣さまよりお借りしました。
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