01
カチャッ。 沙布はカップをソーサーに戻す。
「山勢さん、紅茶すっごく美味しいです」 「良かった。じゃあケーキもどうぞ。あ、紫苑も遠慮せずに食べてくれ」 「え…じゃあ、いただきます」
紫苑と沙布はあの後、山勢の自宅に招待されていた。ちゃっかりフェネックもついてきて、テーブルの端にちょこんと座っている。 そのフェネックが、おもむろに話を切り出した。
「紫苑に沙布、わたしと契約して魔法戦士、魔法少女にならないか」
「魔法戦士って、山勢さんみたいなの?」 紫苑の問いに、山勢が頷く。 沙布は少し不安そうに問う。 「いつもあんなのと戦ってるんですか?」
「そうだね…」 「怖くないんですか?」 「もちろん、怖いよ?でも、やるしかないだろ?」
そう言って山勢は笑う。
「魔法戦士、魔法少女というのは、希望から生まれた存在だ」 フェネックが語りだす。
「それに反して、魔物、魔女は呪いから生まれ、周囲にマイナスの感情を撒き散らす。理由の分からない自殺や失踪、事件などはたいていは魔女が原因だ。しかも、魔女はいつも結界の奥に隠れひそんで普通の人には見えないから、たちが悪い」
「そんな悪い魔女を倒すのが、おれの役目ってわけだ」
「そう。魔法は貴重な存在だよ。実はわたしの姿も、普通の人には見えない。でも君たちにはちゃんと見えてるね?それだけでもう、君たちは選ばれた存在だ。わたしと契約しないか?」
フェネックは尻尾をひとふりして笑う。
「もちろん、タダでだなんて言わないさ。わたしは、君の願いを何でもひとつ、叶えてあげよう」
「え、願い…って」 「何でも、でしょ?じゃあ、不老不死とか長寿とか億万長者とか?」 「…沙布、最後のはちょっと違うんじゃ…」
フェネックはまた尻尾をふる。 「大丈夫、何だってかまわない。どんな奇跡だって起こしてあげられるよ」 「でも」 山勢が口を挟む。
「願って契約したら、一生闘い続ける運命を背負うんだよ。それを忘れるなよ」
「…山勢さんは、何を願ったんですか?どうして魔法戦士になったんですか?」
「おれは…しょうがなかったんだよな…」
家族で乗っていた車で交通事故に遭って、家族は即死。 瀕死のおれの前にフェネックが現れた。 『生きのびる』って願いとひきかえに、おれは魔法になったんだ…。
「だから、ちゃんと選択の余地のある子には、きちんと考えてから契約してほしい。ってことで!」
山勢の声のトーンが上がる。 重い話に俯いていた二人は、はっと顔を上げる。 山勢はウインクして言った。
「二人のために、魔法体験コースをしてあげようかなって」
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