07


「あぶなかったな、君ら。でももう大丈夫!」
コツ、コツ。
明るい声とともに、誰かが近づいてくる靴音が響く。

おそるおそる目を開ければ、そこには同じ中学のブレザーを着た背の高い青年がいた。

「その制服…君たちも、No.6学園の中等部なんだね。おれは、2年の山勢だ…とまぁ、話のまえに!ちょっと一仕事、片付けさせてくれるかな!」

呆気にとられて二人が見守るなか、山勢はすっと床に足を滑らせ、ステップを踏む。
ぱあっと辺りに光が満ちる。
思わず目をつむったが、その一瞬で山勢は黄色をベースとした衣装に変身していた。
続けて、どこからともなく何本もの単発式マスケット銃を取りだし、跳び跳ねる鬚に向かって乱射する。
弾の当たった綿の鬚は霧散し、鬚がいなくなると不思議な空間も泡のように一瞬で消えた。
もうそこは、ただの改装中デパートに戻っていた。廊下の先にはちゃんと非常口の光も見える。


「大丈夫?二人とも、怪我ないか?」
山勢が問いかける。
紫苑はあまりの出来事に呆然としていたが、はっと我にかえって慌てて答えた。

「あ、はい!でも、この子が…」
腕に抱き締めたフェネックを差し出す。

「ああ、こいつはおれの大切な友達なんだ。助けてくれてありがとう」
爽やかに山勢は笑い、両手をフェネックの上にかざした。
黄色い、あたたかそうな光がフェネックの傷を癒していく。
ぶるっと身震いして、フェネックが瞼を開いた。
頭を振って立ち上がる。

「ありがとう山勢!助かったよ」
「いや、お礼ならこの子たちに言ってくれ。おれは通りかかっただけだから」

くるりと身軽にフェネックは紫苑と沙布の方へ向きなおる。
もう傷は全快したようだ。

「ありがとう、紫苑、沙布!」

沙布がびっくりして瞬きする。
「どうして私たちの名前を…」

コツ。
響いた靴音に、沙布は言葉を途切れさせる。全員がそちらを振り向く。

ネズミがいた。ただ黙って、睨みつけるように紫苑を見ている。
山勢が立ち上がり、ネズミと相対する。

「魔女は逃げたよ。追いたければすぐに追いかけたらいい。今回はゆずってやるよ」

コツ。紫苑を見据えたままネズミが一歩進む。
「おれが用があるのは…」

「物わかりが悪いね」
紫苑を庇うように立ち、山勢は声のトーンを落とす。
「見逃してやるって言ってるんだ。早く消えな」

ネズミは立ち止まる。
逡巡するように沈黙した後、くるりと踵をかえし、窓から飛び降りて姿を消した。


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