01


さざ波がきこえる。それと共に歌も。
寄せては返す波の音は規則的なようで不規則で、それに合わせて歌の旋律も高く低く揺れる。
耳をすます。
潮騒と歌は風のように通りすぎてとらえどころがない。
体に、心にすんなり染み込んで、耳に心地よい。
そっと目を開く。
足元の砂がさらっと音をたてる。風に運ばれた白砂は打ち寄せた波に浸り灰色になる。
波が小さくはじけて白く光る。波を追って視線をのばすと、岩に激しく波が襲いかかり細かく砕けていた。荒々しく猛る大波。砕け散るしぶき。
隣の手を握る。
白くなめらかなきれいな手。
その手を握ると安心できる。
(お母さん)
呼びかけてみる。
長い金髪が風になびいていた。
とても美しい人。優しげな微笑み。
ふっと歌が途切れる。
(なぁに)
名を呼ばれる。
(あなたも歌ってみなさい)
彼女は少し身をかがめ、頭をふんわりなでてくれる。
(どうやって?)
本当に分からなくて問いかける。
歌なんて知らない。
ふふっと笑われて、抱きしめられる。ふわっと母の香りがする。
(旋律は、ここにあるわ。あなたの心のなかに、私の記憶のなかに、この風のなかに。その旋律をなぞっていくだけ。すでにそこにあるものを歌うの。新しくつくりだすのじゃない。旋律はずっと続いている。その軌跡を辿って、歌を唄いなさい)
歌が再び流れ出す。
先程までとは若干音色に違いがある。自分の声。
(そう、きれいよ)
彼女が微笑んで、誉めてくれる。心が暖かくなる。
(波の音をよく聴いて。潮騒は、旋律の素敵な伴奏になってくれる)
そう言って、彼女も重ねて歌い出す。
二本になった旋律。
旋律と潮騒。
潮騒と旋律。
風の音...




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