04
その声を聞いた瞬間、思い出した。 あの人だ。名前は思い出せない。顔もはっきりとは思い出せない。でも、あの夢に出てきた、紫色の瞳で黒髪の。 同時に思い出す。あの夢での、幼い頃のエピソード。
かくれんぼ、しよう
なんだそれ
鬼をひとり決めるんだ
僕らは二人しかいないぞ
じゃあ、じゃんけんで負けた方を鬼にしよう
うん
声はさらに告げる。
「ルールは俺が決める。鬼はおまえだ。参加人数は二人、俺たちだけだ。俺を見つけろ。見つけられなければチャンスはない。」
二人だけのかくれんぼ。これは、あの夢の、あの幸せな夏の日の、再現か?
「何のチャンスだ」
思考とは裏腹に、反射的に会話をしていた。
「おまえが日本を変えるチャンスだ」
「…っ。何故、それを知っているんだ!おまえは誰だ」
日本を変える。この世界を変える。 そんな大それた事を考えいたわけじゃなかった。でも…そうかもしれない。このままでいいのか、というもやもやは、僕自身の在り方について、というより、この世界の在り方についてのようなものなのだろうから。 しかし、なぜ、どこの誰とも分からぬ誘拐犯がそれを知っている。 不覚にも動揺すると、声は笑った。
「見つければいいだろう。」
制限時間は1時間。それが過ぎたら、全てを忘れて、また元のおまえに戻るがいい。
勝手にそれだけ述べたてると、スピーカーからの声はぷつりと途切れた。
見つけてやろうじゃないか。 不思議な懐かしい夢と同じ匂いのする声、それから、一方的な挑戦。 これに乗らない手はない。 全てを忘れて元に戻るなんて、できるものか。 あの男を、夢に出てきたあの人を、探しだすんだな。
さあ
かくれんぼの始まりだ。
『もういいかい?』
『もういいよ』
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